令和4年度

校長より

右手左手

車の組立てには多くロボットが使われます。今でもそうかもしれませんが、コンベアの上を車のボディが流れてくると、左右に配置されたロボットから長い腕が伸びて溶接をします。ある会社では、溶接ロボットのケーブルが切れる事案が多く発生しました。ケーブル交換のためにはラインを止める必要があり、生産計画にも大きな影響が出ます。左右対称になるだけで腕の動きは全く同じなのに、左側のロボットの断線が多い理由も当初はわかりませんでした。ある社員が自宅の風呂に入りタオルを絞った際に、自分の腕の筋肉の動きに注目したそうです。会社に戻り並んだロボットの表面カバーを取ってみると、すべてのケーブルは右巻きになっていることを確認します。右側に並んだロボットは右巻きのケーブルを絞る方向に動くため、ケーブルに無理がかかりません。一方で、左側のロボットは正反対の方向に腕を振るため、ケーブルに大きな負荷が加わり、早い断線に繋がったようです。左側設置のロボットはケーブルを左巻きにすることで断線事故は大幅に減少し、生産ラインが止まることもなくなりました。生活をする上でも、ものの形状を知ることは大切です。加えて、どんな分野においても、課題解決のヒントの多くは、現場を離れた意外な場所に潜んでいます。

6月26日(月) 川俣高等学校長

妥協なき取組

どんな状況や環境下においても自分の力を発揮できるようになるには、努力して道を極めることが求められます。『巨人の星』の星飛雄馬や『あしたのジョー』の矢吹丈もそうでした。また、そうした主人公の価値観を受け入れる読者や社会でもありました。人のごく一部だけを捉えて、才能があると評価したり、恰好いいと感じたりしている場合があります。『SLAM DUNK』の作者井上雄彦氏は、毎回必死になりアイディアを引き出し、ネームと格闘しながら全身全霊をかけて作品と向き合い、ペンを入れるなど徹夜して、完成するのは締切の朝、ということがよくあるといいます。『20世紀少年』の浦沢直樹氏も、ネームを書き終えると、まるで全力疾走をしたかのように全身汗だくになっていることが多くあると聞きます。人の脳は、ギリギリの状態に追い込むことで大きな発展を呼び込む、と言われています。生徒の皆さんも、自分の脳を追い込む余地がまだ残されているかもしれません。

6月23日(金) 川俣高等学校長

信 頼

生徒の皆さんが就職し、仕事で課題に直面した際に、社内マニュアルを読み込み、そこから得た解答を基に取り組むことについては、一定の評価を得ることと思います。でも、すべての解答が社内マニュアルに反映されているとは限りません。一方で、周囲からの早期の評価を気にするあまり、目先の100点を狙っても、その場しのぎにしかなりません。大切なことは、早く答えを知ること以上に、答えを導く力を身につけることです。その学びには、同僚である仲間の存在が大きいと言われます。仲間は、皆さんが想像する以上に皆さんを見ています。信頼できると判断すれば、仲間から大きな協力を得ることができます。スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』には、人は他者に対して銀行の口座のように信頼の残高を持っていて、何かが起きるごとに信頼残高を増やしたり減らしたりしている、と書かれています。少しだけ立ち止まり、相手をよく見て学び、相手に自分のことをよく見てもらうことは、信頼や理解の構築において遠回りになることはありません。

6月22日(木) 川俣高等学校長

文の画像化

文章を読むことと理解することは異なるようです。文字を追うだけではなく、読んだ内容を画像としてイメージできることを真の理解の基準とする人もいます。絵には、色や形、配置など細部にわたり具体化することが求められます。物語を読むのであれば、情景描写を、論説文を読むのであれば、グラフや図式などをイメージできれば読書も楽しくなり、理解の深化を図ることもできます。さらに、周囲にいる人に対して、本をとおして自分の把握したことを話してみるのも効果的です。ビブリオバトルという企画に参加すると、自分の読んだ本の感想を伝える技術力向上を図ることができ、一方で、他の人からの話を聞くことにより、新たな切り口に気づくことも多くあるそうです。インプットに加えアウトプットすることで、情報の全ての側面を理解することができます。

6月21日(水) 川俣高等学校長

視点の変化

カップ麺が世に出てかなりの月日が流れます。販売当初に伸ばした売れ行きは、数年経つと一定の頭打ち状態に陥ったため、各社では、麺、スープ、味など様々な観点から改良を加えます。そうした中、カップ麺の消費者層に注目した会社がありました。当時、その会社の商品の約70%が、中学から大学までの男子が食しているとのデータの下、開発グループはカップ麺の増量を試みる提案を行います。確たる理由もなくカップ麺はこの量、とされてきたことへの視点の変化です。1.5倍程度の増量カップ麺は評判を呼びます。同開発グループは、増量を好む人がいるのであれば、減量を好む人もいるはず、との思いから、0.5倍の商品開発も手掛けます。目の前の常識は将来の非常識、という認識を持つことから柔軟な発想は生まれます。生徒の皆さんが感じている以上に、世界は瞬時に大きく変化します。

6月20日(火) 川俣高等学校長

天使の囁き

北海道旭川の少し北に、零下40℃を超える気温も観測されたこともある幌加内(ほろかない)町があります。柱など木材に含まれる水分が凍って膨張してお互いに押し合うことで生じる音が、静まり返った夜更けに鳴り響く「家鳴り」と呼ばれる現象も度々起こります。でも、家鳴りがあった翌朝には、運が良ければ、自然の贈り物、ダイアモンドダストを見ることもできるそうです。その様子は、まるで天使が囁きかけているようにも思えるほどの美しさだそうです。かつて、若い人が多く故郷を離れる傾向にあったのは寒さのせい、と考えていた町の人は、耐寒訓練を行う登山家、及び、寒冷地仕様車やスタッドレスタイヤなどのテストを行う自動車メーカーが多く幌加内町を訪れるのを目にして、寒さを味方につけるとともに、寒さを前面に押し出す企画を考案し始めます。北大演習林内にあるログハウスに泊まってもらい、寒さを体感しながら大学教授の話を聞いたり、雪の結晶のレプリカ作りなど貴重な体験をできるよう、工夫に工夫を重ねました。弱点と思っていたことが、見方を変えれば、実は最大の強みであった、ということはよくあります。ちなみに、1986年に、天使の囁きを聴く集いと名付けられたこの企画は、内容の一層の充実を図るなどして、今も開催されています。

6月16日(金) 川俣高等学校長

周 期

人は24時間周期に従って生活をしています。これは、太陽の光や温度など自然的要因や、学校・会社など時間を拘束される社会的要因、食事など様々な要素から来るもの、とされています。そしてこのリズムに応じて、ホルモンの分泌が効果的になされます。人の体温が下がり自律神経が休まる時間帯は夜の11時から朝の6時頃までとされているため、人が寝る時間に適しているとの指摘もあります。一方で、人は柔軟な生き物なので、一定期間であれば、1時間早く就寝することや3時間程度遅く寝ても対応はできるようです。23時間から27時間が人にとって調節可能時間帯となるため、それを超える時間帯、たとえば海外に移動する際に生じる時差などを体験すると、リズムの同調障害が生じるとも言われています。いずれにせよ、夜更かしや基本的生活習慣を乱す生活は好ましくない、とは言えそうです。

6月15日(木) 川俣高等学校長

客観的観察

大学の講義の際に、金魚が1匹だけ入っている金魚鉢を机上に置き、客観的観察に基づくレポート10枚をまとめるよう指示して教室を出ていかれた教授がいたそうです。学生は、左右に泳いでいるだけで退屈そう、狭いところにいてかわいそう、口をぱくぱくさせることで水を取り入れている、などといったことを書き始めますが、10枚のレポートをまとめるまでには至りませんでした。次の週になると、教授は再び金魚鉢を置き、同じ指示をして教室を出ていきます。前週にまとめたレポートには、主観的記述とされた箇所が赤字でびっしりと指摘されていました。学生の金魚を見つめる視線の本気度が高まります。尾びれの上部を45度右に動かし左に45度動かすことで胴体を170度ターンさせる、金魚鉢の底から10センチのところから4センチ浮上し8秒後に再び底から10センチのところに戻った、など書き始めると、あっという間に10枚のレポートが仕上がりました。行動観察を研究するこの教授は、主観的観点(思い込み)は客観的観察を行う上での障害に成り得ると教えたかったようです。周囲にいる人との関係を築く際にも、予め自分が抱く主観的観点と実際が異なる場合があります。

6月14日(水) 川俣高等学校長

未 知

人は未知なるものを恐れる場合があり、年齢を重ねれば重ねるほど、その傾向は強まります。では、未知なるものと出会ったとき、どう対処すべきでしょうか。一般的には、これまでに得た知識と結びつけたりするなどして、できる限り既知のものに近づけようとします。もしも未知の度合いが強すぎる場合には、これまでに築いた自分の価値観や考え方を壊すことを余儀なくされることもあります。でも、既知ばかりが周囲に存在し、未知がなければ進歩はありません。頭の中に大きな?を浮かべることは、恥じることではなく、むしろ、大きな進歩を生み出す第一歩です。疑問が浮かばない人生はありません。わからない、を連発しながら周囲を見渡すと、その答えを友が持っていたり、教科書に書いてあったり、偶然に目にしたテレビ等をとおして答えが飛び込んできたりします。生徒の皆さん、今日はいくつの?が頭に浮かびましたか。

6月13日(火) 川俣高等学校長

輪 郭

子どもの頃に、塗り絵帳に色を付けていった経験があると思います。予め示されている輪郭から絵の具をはみ出さないように塗っていくと、そこばかりが気になり、何度も何度も色を重ねるなどして、全体としてイメージしたものとはかけ離れた出来となってしまうことがあります。でも、自分では、輪郭からはみ出して描いてしまったと後悔している個所を、誰かが、絵に元気が宿っているね、というように話してくれると、その瞬間から、自分から見ても、同じ絵が見違えるように素晴らしい存在に変わっていることはよくあります。そして、塗り絵帳の次のページに色を付ける際には、その輪郭を気にすることなく、純粋に塗り絵を楽しむ自分がいることと思います。そしてまた、次のページを開いた際には、その輪郭さえ目に入らなくなるかもしれません。でも、もしかすると、もともと輪郭は書かれておらず、自分が作り出した幻想だったのかもしれません。自由な感性をとおして表現するときに、枠は不要です。

6月12日(月) 川俣高等学校長

長 考

将棋の十五世名人大山康晴氏が、対戦中に長考をするのはどんなときか、と問われた際に、うまくいきすぎているとき、と答えています。守りの大山とも称される彼は、物事とはそれほどうまくいくわけもないのに、順調に事が進んでいるときにはどこかに落とし穴がある、と、常に警戒していたようです。そして、誰にでも山と谷があり、山は高ければ高いほど良いけれど、谷の深いのは最も避けなければいけないので、谷をできるだけ浅くするよう、予め様々な手立てを考えている、とも話しています。一方で、一瞬のうちに、現在、過去、未来が頭をよぎるのだそうです。プロ棋士の頭の中には、かつての名人の棋譜が記憶されており、現在の局面を眺め、過去の棋譜から類推して未来を読むのだそうです。一見穏やかにも見える盤上には、現在、過去、未来が混在する状態になっているんですね。盤上では、まさに人生模様が展開されているとも言えます。

6月9日(金) 川俣高等学校長

書き手の思い

世の中で起こっていることを知るには、新聞やテレビ、ネットが重宝されますが、世の中で起こっていることを理解するには、本を読むことが求められます。情報の新鮮さを求めるならネット等の活用による一方で、情報の信頼度など体系的な内容を求める場合は本、とも言えます。本には、書き手によって精査され、分析された情報が書かれているため、土台となる基礎知識を容易に身につけることができるなど、書き手の思いが込められています。現段階で基礎知識のない分野でも、予め本を読んで下地を作っておくことで、後に大きな差が生じます。

6月8日(木) 川俣高等学校長

物 流

江戸時代には、武士の家に出入りする町人などが武士に対して、干魚や昆布、片栗粉など、比較的長持ちする献進物を届けていたそうです。多くもらい過ぎて余ってしまうために、武士から献進物の残りを引き取る献残屋(けんざんや)という商売があった、と、喜多川守貞の著に記されています。献残屋は引き取った品を御用達(ごようたし))に売り、その御用達は、必要とする武士や町人に売っていたとされますから、ある意味、滞ることなく物流が実践されていたとも言えます。でも、自分が届けた献進物が、ぐるっと回って自分の手元に戻ってきたこともあったのかな、と想像すると、少し落語的感覚にも陥ります。

6月7日(水) 川俣高等学校長

干 支

年末や年始など限られた時を除き、私たちの日常生活の中で干支を意識する瞬間は少ないかもしれませんが、一年中、干支を身近に感じる地域があります。宮崎県延岡市にある北方町(きたかたちょう)です。子丑寅卯と、ほぼ時計回りに地区内が12区分されています。明治22年にこうした区分に決まったといいますから、かなりの歴史を持ちます。かつて、「日本唯一干支の町」をキャッチフレーズとして町起こしに取り組み、十二支の文字が入った街灯や絵入り標識などを設置したりしました。12地区全てを回って印をもらうスタンプラリーも行われたそうです。大晦日に行われる干支祭では、実際の牛を連れてきて、子年からの引継ぎ式を催したこともあったそうですが、想像上の動物である辰のときにはどうしたのか、少し気にもなります。

6月6日(火) 川俣高等学校長

場 面

指揮者井上道義氏が若い頃、イタリアのシシリー島を訪れて、半円形劇場で野外音楽会を開催したことがあったそうです。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第二楽章が終わる直前に、突然の停電が発生します。街中の灯が消えてしまい、周囲は全くの暗闇と化し、見えるのは空に煌々と輝く月のみ。そのとき、客席の一人から、ベートーベンの『月光の曲』のリクエストがありました。譜面もなければ練習もしていない、手元すら見えない暗闇の中、果たして演奏するべきか一瞬悩んだそうですが、『月光の曲』の演奏にこれ以上のお膳立てはない、不意の停電の思いがけない贈り物と考え、演奏を決意します。楽団員も皆、頷いて演奏の準備を整えていました。時々、音をはずすことはあったものの、それは心に染み入る名演奏であった、と、井上氏は話されています。もしかするとそれは、運命が予め準備していた場面であったのかもしれません。

6月5日(月) 川俣高等学校長

邪 念

札幌市資料館入口に、右手には秤を、左手には剣を持った法の女神像が設置されています。そして、正義の象徴として飾られたこの女神像は、目隠しをしています。もともとはギリシャ神話やローマ神話に登場した女神を表したとされるこの像は、欧米にも似たようなものがあるそうですが、目隠しをしている像もある一方で、していない像も存在します。目隠しは、余分なものを見ることなく心の眼で裁く、という信念を表現しているとも言われています。そういえば、江戸時代の京都所司代であった板倉重宗氏は、障子を隔てて人の訴えを聞いたそうです。人の顔を見てしまうと、つい、ひいきの感情が芽生えることもあるため、それを避ける手段だそうです。目以上に心眼は、深く広いところまで見通すことができます。

6月1日(木) 川俣高等学校長

趣 味

北海道函館に眼科を開院している方がいらっしゃいます。彼が若い頃、東京大学医学部に眼科医局員として入局する際に、同じく開業医をしていた父が、息子をよろしく、という意味を込めて、予め医局に手紙を送っていたそうです。そこには、自分の子どもを謙遜して使う愚息と同意の言葉、豚児が使われていたので、仲間は親しみを込めて、豚児来る、と黒板に書き、温かく迎え入れてくれたそうです。あだ名はトンジになりました。紹介を受けて結婚をされた相手の方が、あだ名にちなんで、最初のプレゼントとしてブロンズ製の豚を模(かたど)った貯金箱をお贈りになり、それがきっかけとなって、豚に関するコレクションを始めます。イギリスでは、紳士の国らしくネクタイを締めた置物、オランダでは素朴な麦わら細工、スペインでは革製の作品、イタリアではベネチアングラス製のものを購入するなど、今では1万を超えるまでになりました。しみじみと眺めると、それぞれに味がある、というのですから、趣味がもたらす幸福感は大きなものです。でも、これだけ多くのコレクションになっても、一番大切にしているもの、それは、お亡くなりになった奥様から、最初にいただいた貯金箱だそうです。

5月31日(水) 川俣高等学校長

背 景

香りの漂う空間は居心地の良いものです。香りには気分をリフレッシュさせてくれる一定の効果があり、加えて集中力が高まるとも言われています。小さく音楽を流すバックグラウンド・ミュージック(BGM)に対して、バックグラウンド・フレグランス(BGF)と呼ぶこともあるようです。企業によっては、出勤時には気分をスッキリとさせるシトラス系、勤務中には集中力を増すと言われるフローラル系、退勤時間頃には疲れを癒すと言われるウッディ系など、香りの使い分けをしているところもあるとも聞いています。大学の研究により、香りの中でパソコンを打つ作業をしたところ、打てる文字数は14%増加し、一方で、エラーは21%減少したとの報告もあるから驚きです。香りと上手に付き合うのも楽しそうです。

5月30日(火) 川俣高等学校長

当事者意識

歴史を学習する上で大切なこと、それは、その時代をよく知りたいと思うことだそうです。そして、現在放送中の大河ドラマのタイトルにもあるように、その時代に居合わせたとすれば、どうする自分、と考えることも大切なことの一つだそうです。教科書に、モールス信号が発明された、と書かれていたとします。そうなんだ、としか思わないとすれば、それまでですが、その時代は情報を届ける手段が手紙中心であったことを考えると、その発明が日常生活にもたらす劇的な変化を感じ取ることができます。もしかすると、現代に生きる私たちには計り知れない価値を、その時代の人は感じたことと思います。自分がその時代に生きていたらどうするか、この歴史の当事者意識については、かつて大学入試にも出題されたことがあるほど、興味深いテーマです。

5月29日(月) 川俣高等学校長

今の自分

人は、過去を考えると後悔します。未来を考えると不安になります。人は今にフォーカスを当てるようできているようです。でも、今の自分が、他者の顔色をうかがったり、他者比較ばかりするなど、他者の人生を歩むような姿勢を持つことを、最もしてはいけないこととアルフレッド・アドラーは指摘しています。では、どう生きればよいのか。自分の意見や考えを適切にアウトプットできることが大切です。普段から、考える時間と相談相手を見つけるとともに、場面に応じてメモを取るためのノートを持ち歩くことを勧める人も多くいます。一日で劇的な変化は生じませんが、小さくとも、やれることを必ずやることの積み上げは、徐々に正の変化をもたらします。間違いなく、他者のそれではなく、自分の人生を歩むことができます。

5月26日(金) 川俣高等学校長

数的根拠

相手に説明をする際に、具体的な数字(数値)を示すことで説得力が増すことはよくあります。では、経済的効果として、5000万円、50億円、5兆円と3つの数字が示されたとします。5000万円と50億円には100倍の差があり、また、50億円と5兆円には1000倍の差があることを、瞬時に把握できるでしょうか。このように、その数字(数値)に納得したように思えても、その実態を正確には捉えられない理由の一つに、あまりにも大きな数字や数値に対して、人は数の無感覚に陥る、と指摘する人もいます。一方で、想像以上の数字(数値)になることを知り、後に驚く場合も多くあります。100枚の紙で1㎝の厚さになることを前提として、その紙を半分に折り2枚に、それをまた半分に折って2枚を4枚にすることを50回繰り返すとすれば、その厚さはいくらになりますか、という質問に対して、生徒の皆さんが瞬時に描く答えの数は何でしょうか。間違いなく、頭に浮かんだ数よりも驚くほど大きな数になるので、試しに計算してみてください。だからこそ、数字に魅力を感じる人が多くいるのかもしれませんね。

5月25日(木) 川俣高等学校長

真 情

人は人との繋がりにより存在しているので、孤独を嫌う傾向にあります。でも、自分自身と向き合う瞬間は、誰でも孤独です。では、孤独の状態の中、できることは何なのでしょうか。自分のあるがままの思いを、自分自身に率直に伝えることができます。そして、そうする勇気を培うことができます。世にある尺度によりランク付けにこだわる以上に、自分の真情に忠実で、それを信じようとする姿勢は貴重です。その真情こそ、いざというときに自分を守ってくれもします。ドイツの作家ノサックは、「いかに悲観論が強くても、私はやはり、誰かが自分に真情を吐露してくれる人を待っている人間、そして、真情を吐露するのを容易にしてくれる人を待っている人間が、現在も将来も必ずいる、という信念を捨てきれない。」と書いています。

5月23日(火) 川俣高等学校長

幸福感

生徒の皆さんは、どのようなときに幸せを感じるでしょうか。購入したいものが手に入ったとき、あるいは、目指していたことを達成したときなど、人によって違いはあると思います。作家の尾崎一雄氏は、長く寝たきりの療養生活を送りながら、病からの回復を図り闘った方です。彼は次のように書いています。「寝床から抜け出し縁側に出る。激しい勢いで若葉を吹き出している庭前の木や草をしげしげと眺める。自分は、今生きて、ここにこうしている。こういう思いが、これ以上を求め得ぬ幸福感となって胸をしめつける。心につながるもの、目につながるものの一切が、しめやかな、しかし断ちがたい愛惜の対象となるのも、こういう時だ」と。

5月22日(月) 川俣高等学校長

知らない自分を知る

「私はそこを立ち去りながら、独りこう考えた。とにかく自分の方があの男よりも賢明である、と。彼は何も知らないのに、何かを知っていると信じており、私は少なくとも、自ら、知らぬことを知っているとは思っていない限りにおいて、あの男よりも知恵の上で少しばかり優っている。」これはプラトン著『ソクラテスの弁明』に書かれた一節です。知らないことを、知らないと話すことに人は躊躇することがありますが、全く恥じることはありません。知らなければ、知るように心がければよいだけです。むしろ、知らないと表明した方が、思いっきり人に聞くこともできます。併せて、知らない自分に目を向ける勇気を持つことも大きな意味を持ちます。数日後、数か月後、数年後に、大きな差が生じます。

5月19日(金) 川俣高等学校長

褒める

小学校になっても学習に目を向けない我が子を思い、母親は担任の先生に相談します。するとその先生は、家に伺って勉強を見る約束をしてくれました。その少年の家を訪問する先生への感謝の気持ちを込めて、母親は毎回夕食として、メザシとニンジンの煮つけ、ホウレンソウのおひたしを出したそうです。先生から過剰なまでに褒められることで楽しくなり、学習習慣が定着するとともに、いつも美味しそうに食べる先生の様子を見て、その少年も、苦手としていたメザシやニンジン、ホウレンソウを食べることができるようになります。その少年の名は松平康隆さんといいます。身体の弱かった松平さんは、心の中で自分を自分で褒めることでバレーボールに継続して取り組み、大学日本一にもなりました。全日本男子チームの監督に就任すると、1972年ミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得します。自分も褒められて成長した、選手のことも褒めに褒めて才能を伸ばすことを心がけた、そう語ったのは、還暦を過ぎた頃に受けた取材の時でした。金メダルを獲得し帰国した松平さんに、小学校時の担任の先生、高橋泰四郎先生から連絡が入ります。松平さんが、当時美味しそうにメザシを食べていた先生の姿が忘れられない旨、話をすると、高橋先生は、山奥出身のためメザシを見るのも食べるのも初めてで、どちらかといえば苦手ではあったものの、我が子の偏食を直したいという母親の意をくんで食べていた、と話されたそうです。指導者が見せる姿には、かなりの奥の深さがあります。

5月18日(木) 川俣高等学校長

人間関係

よく、他人と過去は変えることができない、という表現を耳にします。アメリカの心理学者エリック・バーンの言葉です。一方で、人間そのものを変えることはできませんが、人間関係は変えることができる、とも言われます。10人の人が周囲にいるとすれば、すべての人と最初から良き関係を築ければよいのですが、10人それぞれが、それぞれの人生を歩んで来ているわけなので、習慣も考え方も異なるのが普通です。だから、全ての人に好まれようとする心配りにより、心理的に疲弊してしまうことがよくあります。こうした際に必要とされること、それは、人間関係を築くときの考え方とされており、以下のような取組を推奨する心理学者の方もいます。10人のうち、まずは3人を自分にとっての重要な人物と位置付け、交流をする時間とエネルギーの7割、つまり、一人に対して約23%を注ぐようにします。残りの7人には、3割の時間とエネルギーを充てるわけですが、仮にやや苦手とする人が1人いたとしても、自分の約4%の時間とエネルギーを充てるだけと自分に思い込ませることで、心理的負担も少し軽くなり、結果として、こうした考え方をとおして、すべての人との良好な人間関係を築くことにも繋がるという理論です。あくまでも一つの例ですが、参考にはなりそうです。

5月17日(水) 川俣高等学校長

左脳鍛錬

人の脳の中で言語系を担当するのが左脳、図形や空間など非言語系の担当は右脳とされています。そのうち、左脳鍛錬に効果的な取組としては読書が挙げられます。でも、一度だけの読み切り型では、理解の深化を図ることができないようです。一方で、2度3度と繰り返し読むことで、読後の印象は大きく変わるとも言われています。それは、脳の成長により、以前とは異なる状態にいることも要因の一つです。最初に読んだ際に、あまり面白みを感じなかった本を手に取ってみてください。違った解釈による読書ができるので、今度は面白いと感じることもあります。小説であれば、主人公とは別の登場人物に感情移入してみたり、敢えて著者とは異なる批判的な視点により読むなど工夫することで、結果として、本に書かれている内容を多角的に読み込むことができます。

5月16日(火) 川俣高等学校長

柔軟発想

果実生産、特に桃の生産に力を入れている県が、かつて、出荷前にその甘さを正確に測ることはできないかと考えていたそうです。会議中に、宇宙から地球の地下資源を探査する人工衛星があることを思い出した職員が、地球も桃も同じく丸いのだから、地球でできることは桃にも適用可能だ、と発言します。ランドサットと呼ばれた人工衛星は、軌道を回りながら地球に当たって反射してくる太陽光を捉えて分析を行っていました。岩石は種類ごとに波長の異なる光を吸収するため、埋蔵されている鉱石の見当がつく、という仕組みだそうです。県果実連からその話を持ち込まれた金属鉱業も最初は驚いたそうです。でも、地球も桃も同じく丸い、という職員の言葉に、専門家も納得したというから興味深いものです。そして、2年の歳月をかけてできあがった機械は、桃1個あたり0.13秒で、その糖度と水分を測定できるようになったそうです。切ってみなければわからなかった桃の中身が瞬時にわかるようになったことは、果実業界に大きな進化をもたらしました。

5月15日(月) 川俣高等学校長

工夫に次ぐ工夫

衣類をしまう際に使用する防虫剤には、樟脳やナフタリン、パラジクロルベンゼンなど刺激臭の強いものが使われていました。匂いが虫を寄せ付けない効果がある一方で、その匂いのために購入を控える人もいたそうです。着る前に一日陰干しをして風に当てると、その匂いはある程度消えますが、面倒である、との声も多く寄せられたため、企業は、防虫剤は匂うもの、という常識を覆す商品開発を始めました。そして、防虫剤に使用されていた成分を科学的に合成するなどして、無臭薬剤の開発に成功します。容器の形も工夫して売り出すと売上が伸びたそうです。でも、液状の無色無臭の薬剤を染み込ませた布を使用していたため、今度は、見た目には残量がわからない、との声が寄せられるようになりました。こうした事態も、防虫剤の着色化を図ったり、容器表面に付けた色が変わるときが残量無しのサインとするなど、再度の工夫により即座対応をしたそうです。その時その時に最高値であったものも、時代の変化とともに変容を遂げるのは、これまでの歴史を見ても明らかです。何事においても、常に創意工夫を要します。

5月12日(金) 川俣高等学校長

十人十色

人が10人集まれば、皆の個性が異なっていたり、別々の選択をしたりするのは当然で、まさに十人十色です。考え方には多様性があること、また、少なくとも10種類程度のモノが常に目の前にあるなど、十分なモノが揃っていることを前提とした良き時代の証でもあります。1960年代の高度成長期が始まった頃には、選択すべきモノに限りがあったことから、十人一色の時代であった、とも言えます。消費者のタイプに応じた商品開発が行われるなど、セグメント市場の時代背景がその要因ともされています。では、今はどうでしょうか。一人の人間の個性は一色ではなくなり、一人が多くの選択肢を持つことができるため、一人十色時代なのかもしれません。時代の捉え方を大きく変える時期は必ずやって来ます。その頻度も高まっています。時代に十分に対応するためにも、各自の力が問われる時なのかもしれません。

5月11日(木) 川俣高等学校長

犬は従順

犬は人の言うことをよく聞く従順な動物とされています。でも、警察犬訓練士の方によると、犬には、従順な心に加えて、リーダーシップを取りたいという、もう一面の心も持っているのだそうです。人間以上に優れていると犬が判断すると、自分がリーダーと思い込むため、それ以降は人の言うことに耳を傾けなくなるというから興味深いものです。一般的な話ですが、欧米では、社会に対する責任を重視する傾向にあるので、飼い主の責務として、犬にも厳しく言い聞かせるため、多くの人が集う場所で、犬は迷惑をかけることなくおとなしくする、と言う人もいます。犬を見れば国民性がわかる、と話す人もいます。

5月10日(水) 川俣高等学校長

友人の大切さについては、入学式や集会時に、生徒の皆さんに多く話してきたところです。当たり前のことですが、自分を除けば、一つの集団は自分とは異なる存在から構成されています。その自分以外の他者を受け入れることで、人は自分を再発見できる、とも言われています。自分とは異なる存在の事実を知り、認めることで、人は己を知ります。仮に、自分だけ、あるいは、自分に似た近い存在のみ認める姿勢しか持たないとすれば、同類が集うのみで自己発見にはいたらない場合もあります。ソローは『森の生活』の中で、「太鼓の音に足の合わぬ者を咎めるな。その人は、別の太鼓に聞き入っているのかもしれない。」と書いています。友情形成には、寛恕の心を要します。

5月9日(火) 川俣高等学校長

眠れぬ夜

何か気になることがあると、眠りたくても眠れないときがあります。そうした際にはどうすることが有効な手立てなのでしょうか。耳を澄ますよう心がけることを推奨する人がいます。虫の声、雨の音、あるいは車の音でも構いません。こうした音を無心に聴くことで眠りに陥るのだそうです。聴覚に意識を集中すると人は考え事をしないため、だそうです。そう言えば、羊を数えるよう勧められたこともありますが、頭の中であっても、視覚に繋がる意識が芽生えることでかえって目が冴えてしまう、という説もあります。生徒の皆さんも、何らかの方法を探ってみる価値はありそうです。

5月8日(月) 川俣高等学校長

習 性

江戸時代の末期から、おとりのアユを使う友釣りという手法が用いられました。アユには、一平方メートル程度の範囲に一匹ずつ住み、苔を食べる習性があります。自分の縄張りに他のアユ(おとりのアユ)が侵入すると、怒って追いかけ回すことを利用して、江戸時代の人はアユを釣りあげようと思いついたわけですから、すごいものです。でも、一般的となった人工種苗のアユは、整備された一定の環境の下で育てられることにより、そうしたアユは縄張りを作りたがらない傾向にあるため、結果として、闘争心も弱いことから、友釣りがしにくくなるのだそうです。環境は、そのものの持つ本来の習性をも変えてしまう力があります。

4月30日(日) 川俣高等学校長

変 化

エクアドルの首都キトに仕事で滞在していた日本人の方の話です。富士山の7~8合目あたりに位置するキトでは、平地の70%程度しか気圧がないことから、密閉したビニールなどは風船のようにパンパンになるのだそうです。気圧の低さは、慣れていない人にとっての体調にも影響を与えます。1回の呼吸で摂取できる酸素量も限られることから、頭痛や食欲不振などの症状を引き起こす場合もあるのだそうです。でも、歴史が物語るように、動物も植物も、もちろん人も、その土地で生活するために変化を遂げ、見事に課題の克服を図ってきました。人の持つ柔軟性は、自らが認識する以上に素晴らしいものです。ちなみに、身体を守るためにヘモグロビンが増加したためなのか、あるいは肺活量が大きくなったためなのかは定かではありませんが、前述した方は4年間のキトでの生活をとおして、日本に帰国した後に運動をしても疲れにくくなった、と話されています。一方、キトに住む人たちは、低地に移動すると空気が重くのしかかるように感じ、風の圧力に耐えられずに、すぐにキトに戻りたがるそうです。人には、まだまだ神秘的な面がたくさんあります。

4月28日(金) 川俣高等学校長

孤 独

人間とは、人の間と書くくらい、仲間と仲間との間にある存在なので、孤独を嫌う傾向にはあります。井伏鱒二の作品『山椒魚』にも、「ああ、寒いほど独りぼっちだ。」という表現が出てきます。でも、ヘルマン・ヘッセは、「ほんとうに、自分をすべてのものから逆らいようもなく、そっとへだ(隔)てる暗さを知らないものは賢くはないのだ。」と表現し、孤独を知らない者は、人と人とが結び合う真の喜びを知ることはできないし、自分自身のことも知ることはない、と指摘します。新しい環境になれば、一時、誰でも孤独を感じることはあります。でも、孤独は永遠に続くことはありません。心細さ、不安も然りです。

4月27日(木) 川俣高等学校長

真の友

人と人の繋がりの中で、特に尊敬の念をもって結ばれる繋がりは貴いものとされています。自分の他にも最も尊敬できる他者がいる、こうした感情ほど、自分に大きなエネルギーをもたらす存在はありません。キケロも『友情について』の中で、単に遊び友だちや、利益で結ばれていることを真の友情とは言わない、と書いています。友情とは、人と人とがお互いに尊敬し合い、人と人との信頼の上に成立する、それ自体で価値のある人間関係です。生徒の皆さん、高校生活を送る中で、自分にとって親友と呼べる人を見つけ出すことができたら幸せです。

4月26日(水) 川俣高等学校長

前向きな捉え方

日々学習に仕事に積極的に取り組みたいと思いつつも、実現にはいたらない経験は誰にでもあります。少しでも前向きさを感じるためには何が必要かについて研究したのは、医療社会学者のアーロン・アントノフスキー氏です。彼は1つ目に、有意味感を挙げます。たとえば、希望しない部署に配置されても、これは将来に役に立つ仕事を覚える機会、と捉えることを指します。2つ目に、全体把握感を挙げます。今の仕事が忙しいと思うよりも、次週には少し余裕ができる、という考え方のことを指します。3つ目に、経験的処理可能感を挙げます。今の仕事も厳しいが、以前にも厳しい仕事を成し遂げたのだから今回もうまくいく、という捉え方です。以上挙げた3つの考えは、ちょっとした考えの変革により、生徒の皆さん自身も取り入れることができるので、是非、試してみてください。

4月25日(火) 川俣高等学校長

モ ノ

今は、世に情報やモノが溢れています。人の生活は豊かになり、また、その豊かな生活を求める傾向は新たなモノの開発を促進しています。でも、20年前には、そのほとんどが存在していなかったのも事実です。そうした中、人は幸せな生活を送っていました。洗濯機と冷蔵庫、テレビを三種の神器としていた時代もあります。私たちは、より豊かな生活を求める一方で、消費する立場をいう消費者としてだけではなく、今あるモノを永く大切にする気持ちも求められています。

4月24日(月) 川俣高等学校長

ホーム

ホームとアウェイ、どちらを好むか聞かれれば、何となく安心感のあるホームを選択すると思います。でも、人の脳は、予め起こることが予想される状況(ホーム)を好まず、むしろ想定外のこと(アウェイ)を好む傾向にあるそうです。ということは、脳は変化に対応できるし、別の言い方をすれば、脳は常に変わりたがっている、とも言えます。脳が変われば人は成長します。無限に発展する可能性が脳にある、ということは、人は発展し続けることができるのです。自分で一定の枠を定めてしまうことは、自らの手で発展する余地、つまり可能性を狭めることにもなります。自分の脳とともに、生徒の皆さん自身も成長や発展をし続けることができるのです。

4月21日(金) 川俣高等学校長

自 由

すべての時間が行であり、顔を洗うにも食事を摂るにも作法を守ることが求められるなど、日本の禅寺での修行の厳しさはよく知られています。一方で、インドのアシュラム(修行場)では、修行者に修行する場を提供するのみで、日課すら決められていないなど、すべてが修行者に任されている、全くの自由なのだそうです。何でも自分で決め、行動し、その責任は自分が引き受けなければならないなど、これは究極の難行とも言えます。でも、こうした時間をとおして自分自身と向き合い、時には自分自身と戦うことで、真に自分の心と仲良くなれるのかもしれません。こうしないようにしよう、こうした考えはよくない、と思っているうちは、まだ自分にとって自分が敵のような存在なのだ、とも言えます。自分の心に照らして納得できる生活を送れるようになったとき、ある意味で悟りの境地に達することができるのかもしれません。

4月20日(木) 川俣高等学校長

時間枠

今の状況がいつまで続くのかわからずにいると、人は集中力を欠く傾向に陥ります。学校の授業についても、1コマの授業が何時まで行われるのかわかることで、集中して学習に取り組むことができるとも言えます。これから1時間で会議資料を整える、10分間で出かける準備をし終えるなど、自らに時間枠を設けることは、人の脳に一定の安心感を与えるようです。時間枠を設定することで、当初は間に合わせようと焦りも生じますが、この心地よい緊張感が理解力を一層高めることにも繋がります。

4月19日(水) 川俣高等学校長

生徒の皆さんも、相手に質問をする場面が多くあると思います。そして、たとえば、「いつまでに完成しますか。」と漠然と聞くよりはむしろ、「今週中までに完成しますか。それとも、月末まで、あるいは次の月までにはできますか。」と、具体的な期日や数字を挙げたほうが相手は答えやすいことは容易に想像がつきます。こうした際に、選択肢は2つよりは3つが好ましく、逆に4つ以上は迷いが生じることから不要、とする説があります。一方で、3つの選択肢を用意するには頭を使いますが、意思疎通を図る上では有効な手段とされています。生徒の皆さんが就職し、業務交渉の場に立ち会うときには、予め、「円滑に交渉が成立する。内容を一層詰める必要が生じる。いったん話を持ち帰る。」という3つの選択肢を念頭に臨むことを要します。また、あるプランを提示するなら、「相手にとって最も良い条件、相手が納得する現実的条件、相手が敬遠する可能性のある条件」という3つの条件を考えることで、相手の考えるパターンの先読みができます。3つの選択肢に係る意識は、仕事の上でも普段の生活をする上でも、会話の一層の促進を図ることができます。

4月18日(火) 川俣高等学校長

段取り

仕事に関して質問を受けたり指示を受けた際に、迅速に対応できるよう、予めの準備が必要とされています。料理人の方は冷蔵庫の中を綺麗に仕切り、どこに何を置いているかをしっかりと頭に入れて仕事に臨むそうです。指示されるとすぐに材料を取り出すことができることに加え、庫内の温度も上がらないなど、利点が多くあるからだそうです。細部にまで意識が回り、先を読むことができ、結果として仕事に関して高い評価を得るようになるのも、すべては準備、段取りにかかっています。

4月17日(月) 川俣高等学校長

図 面

地方の技術部門の支社に配属となった方が、毎日、図面の一部作成をするよう指示され、2年間その作業に取り組んでいたそうです。転勤したばかりの上司が、今はどういった仕事をしているのかと彼に尋ねると、彼は、東京では同期が作成した資料がプレゼンに使われるなど充実感を持って仕事をしているのに、自分はずっとこうした雑務をしている、と、つまらなそうに答えます。上司が続けて、その図面の縮尺は何分の一か尋ねると、彼は即座に答えることができなかったそうです。そこで、その上司は彼に、「先輩があなたに与えたのは、雑務ではなく経験だ。でもあなたは、図面の全体を見ることなく、ただ指示された一部のみを見ていたにすぎない。この2年間、時間を浪費していただけだ。この図面が今後どう使われるのか、この図面が、この後に人の生活をどのように豊かにするのか、を考えようとすれば、縮尺でも何でも瞬時にわかる。技術は教科書には書いていないし、誰も教えてはくれない。経験でしか身に着けることはできない。東京の同期よりも、あなたのほうが恵まれた環境にいる。」と語ります。彼は後に当時を振り返り、一枚の図面の持つ無限の広がりを感じることができるようになった、と述べています。

4月14日(金) 川俣高等学校長

令和5年度始業式(4月10日)時の話

生徒の皆さんは、ドイツの詩人であり劇作家、法律家でもあったゲーテを知っているでしょうか。彼の作品の中にファウストがあります。この世のすべてを知り尽くしたいと思うファウストは、哲学、法学、医学など、およそ学問と呼ばれるすべての分野に夢中で取り組みますが、依然として、ただただ迷い歩いているだけで、何もわかっていない自分の存在に気づき、深く落ち込みます。でも、作品ファウストの中に出てくる神は、ファウスト自身が苦しむ姿を天から眺めながら、人間は努力する限り迷うものだ、と語るのです。何かを成し遂げようと思ったときに、ただの一度も迷うことなく目標達成はできません。高い目標を掲げれば掲げるほど、何かを為そうと願えば願うほど、人はあれこれ思い悩むものです。努力をしなければ迷うことさえしないので、すべてにおいて迷いのない人は、何の努力もしない人である、との厳しい指摘もあります。ファウストの飽くなき探究心と、その先にある悩みこそ、人の持つ向上心の証、とも言えます。
シェイクスピアのハムレットも、深刻な悩みを抱えて、なすべきか、なさざるべきか、とつぶやきます。決心のつかない彼は優柔不断な主人公にも写りますが、そうした迷いがなければ決断が生まれないのも事実です。迷いは、確固たる信念の欠落により生み出されたものではありません。そして、迷いの末にたどり着いたもの、それこそが、何ものにも動じることのない、強い意思です。生きるということは、生涯にわたって迷い続けることだ、とも言えます。人は、幾筋にも分かれた行路を前にして、進むべき選択肢を絞り込む際に少しの躊躇を感じますが、どの道を進んだとしても、足の向く先には、見るべく、聞くべく、感ずべき大切なものがあります。生徒の皆さんには、迷いを苦しみとして捉えてほしくはありません。読書をしたり、友や先生方に相談したりして解決を図るなど、迷いを解く術は多く存在します。重ねて伝えます。迷いは、それだけ真剣に努力している証拠です。行くべき道を自分の力で見い出すためにも、人としての真実を見つけ出すためにも、大いに努力して、大いに迷い、そして、その解決を図るべく大いに考え、結果として、成長を遂げる令和5年度にしてほしいと思います。

4月12日(水) 川俣高等学校長

自分との関係性

古代アテナイの人たちはアゴラ(広場))を中心として生活を送っていました。一日の仕事は午前中に終わってしまうので、午後には、アゴラには馬具屋や布地屋など、多くの市場が開きます。そうした中を、哲学の祖とされるソクラテスは、何とこんなにたくさんの私に関係のないものがあるのか、と、ささやきながら歩いていたそうです。では、ソクラテスにとって関係のあるものとは何だったのでしょうか。彼にとって、それは知恵でした。人は、自分には関係ないと思えば関心を払うことをしません。一方で、自分との関係性を見い出せば、貪欲なまでの探究心を発揮します。ある概念に価値を生み出す基準は、人そのものです。元々概念に価値があるというよりもむしろ、人がそこに価値を与えていくのかもしれません。生徒の皆さんにとって、関係性の高いと感じるものは何でしょうか。

4月11日(火) 川俣高等学校長

精 進

一途に邁進して目標達成を図る姿は素晴らしいと思います。他者の目を気にすると恥ずかしさを感じることもあるかもしれませんが、その取組の価値が下がることは決してありません。詩人の坂村真民氏は、我行精進、忍終不悔、と称しました。修行に終わりはなく、あくまでも自分の道を歩み続けることに何ら悔いはない、という意味とされています。良寛和尚は自らを大愚と称しました。これは、自分の掲げる目標達成に向けて精進する生き方や、わき目もふらずに一心に歩み続ける愚直さこそ偉大であり、また、光輝くものである、という意味とされています。集中していると、周囲が気にならなくなるその瞬間を数多く体験できれば、そのことだけでも大きな意義があります。

4月10日(月) 川俣高等学校長

仕事のおおよその見通しがついたときなどに、峠を越えた、という表現を使います。峠とは、山のこちら側とあちら側の境に位置する高い場所を指しますが、移動手段がなく、他地域との交流もしにくい状況にあった昔の人にとって、山は、見えぬ理想郷を思わせるあこがれの存在であったとの指摘もあります。今でも、旅の原点にあるのは、あちら側にある素晴らしい世界に触れたいという思いであり、そうした思いが人を旅に誘(いざな)うとも思えます。そういえば、民俗学の第一人者である柳田国男氏は、日本中を歩いた旅人としても知られています。 最も心に刻まれる旅の瞬間を問われた柳田氏は、「峠に立つと、景色が一変する。こちら側とむこう側では、空気までも違っている。住む人の考えも風景も、まるで異なる2つの地域を、峠をわたる風に吹かれながら眺めていると、何ともいえない気分になる。」と話されていました。生徒の皆さんも、きっと、人生観に大きく影響を与えるような峠に立つ瞬間を何度も体験することになります。

4月6日(木) 川俣高等学校長

学習法

考査などテストが近づくと、早く知識の身に付く何らかの方法はないか、と考えがちです。本屋に行けば、学習法から暗記法まで様々な方法を紹介している本がよく目につきます。でも結局は、約2300年前に、ギリシアのプトレマイオス一世が数学者ユークリッドに「幾何学を容易に学ぶ方法はないか。」と尋ねた際に、ユークリッドが答えた「幾何学に王道なし」につながるのではないかと思います。また、世界的細菌学者の野口英世博士も、「努力だ、勉強だ、それが天才だ。誰よりも3倍、4倍、5倍勉強する者、それが天才だ。」と話されています。いくら学習法に省エネを取り入れたとしても、地道な努力は必要とされるようです。

4月5日(水) 川俣高等学校長