令和4年度

校長より

ヤシの木

1980年代にグアムでは駐在する日本人の数が急激に増加したために、それまでの小学校では教室が足りないほどになりました。放課後の教室を借りるなど依頼したところ、ある小学校で快く協力してくれたそうです。授業には現地語を学ぶ機会もあり、南国グアムには、雪を表現する言葉がないことを知ります。もちろん、雪を見た経験を持つ子どももほとんどいません。教育活動でお世話になった関係者の中に北海道千歳の方がいたため、グアムの子供たちに雪に触れてもらう機会を考案します。雪を木枠に入れて踏み固め、ドライアイスで凍らせた氷塊を削って雪だるまを作り、保冷コンテナでグアムに運んだそうです。420キログラム程の雪だるまが到着すると、グアムの子どもたちは大騒ぎです。後に、グアムから千歳宛送られた箱には、ぎっしりとヤシの実が詰まっていたそうです。その小学校の子どもたちが、家の庭のヤシの実を一つ一つ丁寧に集めてくれたものでした。ふとした交流が、遠く離れた地域の距離感を大幅に縮めてくれました。思いに溢れたヤシの実が芽を吹きヤシの木になると、新千歳空港内に飾られたそうです。

11月27日(月) 川俣高等学校長

ハンコ

ハンコはそのほとんどが丸い形をしています。少し削りを入れているものもありますが、大抵、ハンコの上下を示すものは付いていません。斜めや逆さにならないよう、印字された部分を確かめながら押印するのは、多少面倒と思えることもあります。実は、その確かめる間を持たせるために、敢えて丸い形を取り入れているとする説があります。サイン文化ではなかった日本では、自分の名が刻まれた印は非常に重要な存在です。会社で出される企画書などに押印することは自分の責任を伴うことから、ハンコの上下を確かめる時間をとおして、印を押しても大丈夫か、と、慎重に自分に問い直す時間を作り出しているというものです。ハンコを簡略化する時代になっても、そうした心がけを持ち続けることは大切です。

11月24日(金) 川俣高等学校長

蛍光灯の紐

企業本社ともなれば、社内に限らず社外からも多くの人が出入りするので、どの場所も明るくしておくのが普通です。でも、かつて、社員一人ひとりの机を照らすために、敢えて天井から各人用の蛍光灯の紐を垂らして、電気のオンオフをしていた会社がありました。社員は、席を離れるときには自分用の蛍光灯の紐を引き電気を消します。トイレにも紐が用意されています。1フロアに300を超える人が仕事をしており、フロアは複数ありますから、全体では3千本程度の紐が天井から下がっていたことになります。特に新入社員の中には、見栄えがあまりよくないと感じていた人も多くいたと聞きます。こまめに電気を消すことで年間数百万の経費削減を図ることを第一の目的としているものの、そこにはもう一つの重要な理由がある、と代表取締役社長は話されています。それは、会社の扱うお金は、百円、二百円の買い物をしてくださったお客様から預かった大切なものなので、1円たりとて無駄にはできない、という商人気質を忘れないため、なのだそうです。社員は自分の蛍光灯の紐を引くたびに原点である商人気質を思い出し、その精神を胸に刻むのだそうです。

11月22日(水)

自らの尺度

人には承認意欲があり、他から認められることを励みとする傾向が見られます。でも、成功や失敗、世にある毀誉褒貶など外部にある尺度以上に大切なこと、それは、自分の為すべきことに自分が納得できるための判断基準、言い換えれば、内的尺度を持つことです。そうした尺度を持ち自らを信じる偉人は、これまでにも多くいました。宋栄子も、『世を挙(こぞ)って之れを誉むれども、勧むることを加えず。世を挙って之れを非(そし)」れども、はばむことを加えず。』と表現しました。世間がこぞって自分を誉めたとしても、大いに励み、勇んで仕事をすることもなければ、万が一、世間が自分をけなしたとしても、意欲がくじけることもなく、ただ、自分に自信を持って対処するだけである、と述べています。物事の尺度は外ではなく、自分の中にあります。

11月21日(火) 川俣高等学校長

蘇 る

ディズニーリゾートの近くに、水鳥を中心に約200種類を超える野鳥の住むエリアがあり、野鳥観察舎も設けられていて、その生態をじっくりと観察することができます。近くを流れる丸浜川の存在も、野鳥生育のために大きな影響を与えています。1980年代に、丸浜川にあった水路が水門により閉ざされ、海から切り離されると水質悪化が生じたそうです。綺麗な丸浜川を取り戻そうと、民間団体の方々はウナギの養殖地で水車が使用されていることに着目します。水車のもたらす水しぶきが、空中の酸素を水の中に取り込み、良き状態を保つのだそうです。1週間もたたないうちに、水の色が変化します。酸素濃度を図ると、水車導入前に0であった酸素量が30%を示していました。水が生命を取り戻そうとしている、という民間団体や地域の方々の喜びの大きさに比例して、間もなく、生き物の姿も確認できるようになりました。物事を成せる背景には、常に人の情熱があります。

11月20日(月) 川俣高等学校長