令和4年度

校長より

深堀り

世阿弥は、佐渡島にいた時期に徹底的に見つめ直すことをとおして、能楽に深みを加えたとも言われています。西郷隆盛や大久保利通も、情報が限られる中で世について考え、世界情勢までも知り得たそうです。共通するのは、我一心なり、の精神の下、よそ見をすることなく自分の足許を良く見て、深堀りしようとする姿勢です。隣の芝生は青く見えますが、その時点で二心があります。全てにおいて真理は深い処にあります。そして、不退転の覚悟で事に当たらねばならない瞬間は存在します。生徒の皆さんにも、その場面は必ず来ます。困難の克服を図るには苦労を伴いますが、その際には、山より大きな猪はいない、海より大きな鯨はいない、と心の中で唱えてみてください。

12月4日(月) 川俣高等学校長

1対29対300

かつて階段の踊り場に、「足元にお気をつけください。1対29対300」という張り紙を貼っていた会社がありました。1件の大きな事故が生じる背景には29の中規模の事故があり、29の事故の背景には、取るに足りないとも思える300の小さな事故がある、とのハインリッヒの理論です。宮水と呼ばれる名水が近くに湧出する地域にあるこの会社では、その水脈を守るために会社を拡大することをせず、また、建物の十分な幅もないことからエレベータを設置できないために、階段を活用していたそうです。でも、多くの社員や大切なお客様が階段で転ぶなどして怪我することのないよう、未然防止の意味を込めて先ほどの張り紙をしたそうです。会社広報の方は、会社を訪れた大抵の人はこの張り紙の意味を問うため、注意喚起の継続につながっている、とも話されていました。

12月1日(金) 川俣高等学校長

名 人

生徒の皆さんは、日本の戦国時代の剣客であった塚原卜伝(ぼくでん)の名を聞いたことはあるでしょうか。武勇伝も多く、その中には次のような話があります。卜伝が剣の極意を伝えようとしていた優秀な弟子がいました。道端に繋がれた馬の後ろを通ろうとした際に、その馬が後ろ脚を跳ね上げます。とっさのところでそれをかわした弟子を、周囲にいた方々は褒め称えますが、卜伝だけは満足しなかったそうです。そして、極意を授ける器ではない、とつぶやきます。訝った周囲の方々が卜伝ならどうするか尋ねたところ、彼は、馬からかなり離れたところを通ったそうです。さて、その極意とは?馬の跳ねた脚を避けることができたのは優れた技にも見えるが、馬は跳ねるものだという概念を失念して近づいた迂闊さを忘れてはいけない、とのことでした。卜伝からすると、その弟子は達人ではあっても名人の域には達していない、ということのようです。道を究める奥深さを感じます。

11月30日(木) 川俣高等学校長

偶然の必然

木村秋則氏は奇跡のリンゴを作り上げた方として知られています。木村さんが山の中を歩いていると、偶然にドングリの木を目にします。虫はついていないし、厚みのあるしっかりとした葉をしています。加えて、そのドングリの木の周辺には自然に多くの種類の草が生い茂り、そのために豊かな土壌が出来上がっていたそうです。リンゴ農家として長く試行錯誤を繰り返していた木村さんの中に、これだ、と思える瞬間が訪れました。彼の耳には、土の中を見るよう話しかけるリンゴの木の声が届いたようにも思えたそうです。そして、それまでの彼は、見ることの容易い表面ばかりに気を取られていたことにも気づいたそうです。無農薬で無肥料栽培が成功したのは、それから2年後のことです。生徒の皆さん、目線の先には見えやすいものは多くあります。でも、物事の本質は深層にあります。目の前にあるものが、今は一つのリンゴの花であったとしても、それが苦労をとおして得た花であったとすれば、畑一面に咲く花を見るのに多くの日数は要しません。

11月29日(水) 川俣高等学校長

満足度

かつての車業界のセールスマンと購入側の心理状態をとおして、現在の社会情勢を説明する研究者がいます。セールスマンは見込客との契約が近づくと、様々なセールス活動を行い、契約という成果に結びつけました。全てに当てはまるわけではありませんが、セールスマンの喜びは契約時にピークとなる一方で、購入側は納車時期が近づくと喜びのピークを迎えるため、セールスマンと購入側には喜びを感じる時期にズレが生じることになります。でも当時は、モノを作れば売れる時代でした。車に関しても、次の購入者がすぐに現れます。一方で、家庭に一定のモノが揃えば、需要は頭打ちになります。新しく車を購入しいと考える人が市場で約6%という一部データもある現状において、会社の売上を伸ばすのに必要なこと、それは、今のお客様を大切にすることである、と企業は気づきます。顧客満足度という言葉も生まれました。次の購入見込者に移っていたセールスマンの目線は、今、目の前にいるお客様に向けられます。当然、顧客満足度は高まり、お互いの信頼度も深まります。モノに溢れたかつての時代以上に、今は、心が通い合う良き時代であるとも思えます。

11月28日(火) 川俣高等学校長