令和4年度

2023年5月の記事一覧

趣 味

北海道函館に眼科を開院している方がいらっしゃいます。彼が若い頃、東京大学医学部に眼科医局員として入局する際に、同じく開業医をしていた父が、息子をよろしく、という意味を込めて、予め医局に手紙を送っていたそうです。そこには、自分の子どもを謙遜して使う愚息と同意の言葉、豚児が使われていたので、仲間は親しみを込めて、豚児来る、と黒板に書き、温かく迎え入れてくれたそうです。あだ名はトンジになりました。紹介を受けて結婚をされた相手の方が、あだ名にちなんで、最初のプレゼントとしてブロンズ製の豚を模(かたど)った貯金箱をお贈りになり、それがきっかけとなって、豚に関するコレクションを始めます。イギリスでは、紳士の国らしくネクタイを締めた置物、オランダでは素朴な麦わら細工、スペインでは革製の作品、イタリアではベネチアングラス製のものを購入するなど、今では1万を超えるまでになりました。しみじみと眺めると、それぞれに味がある、というのですから、趣味がもたらす幸福感は大きなものです。でも、これだけ多くのコレクションになっても、一番大切にしているもの、それは、お亡くなりになった奥様から、最初にいただいた貯金箱だそうです。

5月31日(水) 川俣高等学校長

背 景

香りの漂う空間は居心地の良いものです。香りには気分をリフレッシュさせてくれる一定の効果があり、加えて集中力が高まるとも言われています。小さく音楽を流すバックグラウンド・ミュージック(BGM)に対して、バックグラウンド・フレグランス(BGF)と呼ぶこともあるようです。企業によっては、出勤時には気分をスッキリとさせるシトラス系、勤務中には集中力を増すと言われるフローラル系、退勤時間頃には疲れを癒すと言われるウッディ系など、香りの使い分けをしているところもあるとも聞いています。大学の研究により、香りの中でパソコンを打つ作業をしたところ、打てる文字数は14%増加し、一方で、エラーは21%減少したとの報告もあるから驚きです。香りと上手に付き合うのも楽しそうです。

5月30日(火) 川俣高等学校長

当事者意識

歴史を学習する上で大切なこと、それは、その時代をよく知りたいと思うことだそうです。そして、現在放送中の大河ドラマのタイトルにもあるように、その時代に居合わせたとすれば、どうする自分、と考えることも大切なことの一つだそうです。教科書に、モールス信号が発明された、と書かれていたとします。そうなんだ、としか思わないとすれば、それまでですが、その時代は情報を届ける手段が手紙中心であったことを考えると、その発明が日常生活にもたらす劇的な変化を感じ取ることができます。もしかすると、現代に生きる私たちには計り知れない価値を、その時代の人は感じたことと思います。自分がその時代に生きていたらどうするか、この歴史の当事者意識については、かつて大学入試にも出題されたことがあるほど、興味深いテーマです。

5月29日(月) 川俣高等学校長

今の自分

人は、過去を考えると後悔します。未来を考えると不安になります。人は今にフォーカスを当てるようできているようです。でも、今の自分が、他者の顔色をうかがったり、他者比較ばかりするなど、他者の人生を歩むような姿勢を持つことを、最もしてはいけないこととアルフレッド・アドラーは指摘しています。では、どう生きればよいのか。自分の意見や考えを適切にアウトプットできることが大切です。普段から、考える時間と相談相手を見つけるとともに、場面に応じてメモを取るためのノートを持ち歩くことを勧める人も多くいます。一日で劇的な変化は生じませんが、小さくとも、やれることを必ずやることの積み上げは、徐々に正の変化をもたらします。間違いなく、他者のそれではなく、自分の人生を歩むことができます。

5月26日(金) 川俣高等学校長

数的根拠

相手に説明をする際に、具体的な数字(数値)を示すことで説得力が増すことはよくあります。では、経済的効果として、5000万円、50億円、5兆円と3つの数字が示されたとします。5000万円と50億円には100倍の差があり、また、50億円と5兆円には1000倍の差があることを、瞬時に把握できるでしょうか。このように、その数字(数値)に納得したように思えても、その実態を正確には捉えられない理由の一つに、あまりにも大きな数字や数値に対して、人は数の無感覚に陥る、と指摘する人もいます。一方で、想像以上の数字(数値)になることを知り、後に驚く場合も多くあります。100枚の紙で1㎝の厚さになることを前提として、その紙を半分に折り2枚に、それをまた半分に折って2枚を4枚にすることを50回繰り返すとすれば、その厚さはいくらになりますか、という質問に対して、生徒の皆さんが瞬時に描く答えの数は何でしょうか。間違いなく、頭に浮かんだ数よりも驚くほど大きな数になるので、試しに計算してみてください。だからこそ、数字に魅力を感じる人が多くいるのかもしれませんね。

5月25日(木) 川俣高等学校長

真 情

人は人との繋がりにより存在しているので、孤独を嫌う傾向にあります。でも、自分自身と向き合う瞬間は、誰でも孤独です。では、孤独の状態の中、できることは何なのでしょうか。自分のあるがままの思いを、自分自身に率直に伝えることができます。そして、そうする勇気を培うことができます。世にある尺度によりランク付けにこだわる以上に、自分の真情に忠実で、それを信じようとする姿勢は貴重です。その真情こそ、いざというときに自分を守ってくれもします。ドイツの作家ノサックは、「いかに悲観論が強くても、私はやはり、誰かが自分に真情を吐露してくれる人を待っている人間、そして、真情を吐露するのを容易にしてくれる人を待っている人間が、現在も将来も必ずいる、という信念を捨てきれない。」と書いています。

5月23日(火) 川俣高等学校長

幸福感

生徒の皆さんは、どのようなときに幸せを感じるでしょうか。購入したいものが手に入ったとき、あるいは、目指していたことを達成したときなど、人によって違いはあると思います。作家の尾崎一雄氏は、長く寝たきりの療養生活を送りながら、病からの回復を図り闘った方です。彼は次のように書いています。「寝床から抜け出し縁側に出る。激しい勢いで若葉を吹き出している庭前の木や草をしげしげと眺める。自分は、今生きて、ここにこうしている。こういう思いが、これ以上を求め得ぬ幸福感となって胸をしめつける。心につながるもの、目につながるものの一切が、しめやかな、しかし断ちがたい愛惜の対象となるのも、こういう時だ」と。

5月22日(月) 川俣高等学校長

知らない自分を知る

「私はそこを立ち去りながら、独りこう考えた。とにかく自分の方があの男よりも賢明である、と。彼は何も知らないのに、何かを知っていると信じており、私は少なくとも、自ら、知らぬことを知っているとは思っていない限りにおいて、あの男よりも知恵の上で少しばかり優っている。」これはプラトン著『ソクラテスの弁明』に書かれた一節です。知らないことを、知らないと話すことに人は躊躇することがありますが、全く恥じることはありません。知らなければ、知るように心がければよいだけです。むしろ、知らないと表明した方が、思いっきり人に聞くこともできます。併せて、知らない自分に目を向ける勇気を持つことも大きな意味を持ちます。数日後、数か月後、数年後に、大きな差が生じます。

5月19日(金) 川俣高等学校長

褒める

小学校になっても学習に目を向けない我が子を思い、母親は担任の先生に相談します。するとその先生は、家に伺って勉強を見る約束をしてくれました。その少年の家を訪問する先生への感謝の気持ちを込めて、母親は毎回夕食として、メザシとニンジンの煮つけ、ホウレンソウのおひたしを出したそうです。先生から過剰なまでに褒められることで楽しくなり、学習習慣が定着するとともに、いつも美味しそうに食べる先生の様子を見て、その少年も、苦手としていたメザシやニンジン、ホウレンソウを食べることができるようになります。その少年の名は松平康隆さんといいます。身体の弱かった松平さんは、心の中で自分を自分で褒めることでバレーボールに継続して取り組み、大学日本一にもなりました。全日本男子チームの監督に就任すると、1972年ミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得します。自分も褒められて成長した、選手のことも褒めに褒めて才能を伸ばすことを心がけた、そう語ったのは、還暦を過ぎた頃に受けた取材の時でした。金メダルを獲得し帰国した松平さんに、小学校時の担任の先生、高橋泰四郎先生から連絡が入ります。松平さんが、当時美味しそうにメザシを食べていた先生の姿が忘れられない旨、話をすると、高橋先生は、山奥出身のためメザシを見るのも食べるのも初めてで、どちらかといえば苦手ではあったものの、我が子の偏食を直したいという母親の意をくんで食べていた、と話されたそうです。指導者が見せる姿には、かなりの奥の深さがあります。

5月18日(木) 川俣高等学校長

人間関係

よく、他人と過去は変えることができない、という表現を耳にします。アメリカの心理学者エリック・バーンの言葉です。一方で、人間そのものを変えることはできませんが、人間関係は変えることができる、とも言われます。10人の人が周囲にいるとすれば、すべての人と最初から良き関係を築ければよいのですが、10人それぞれが、それぞれの人生を歩んで来ているわけなので、習慣も考え方も異なるのが普通です。だから、全ての人に好まれようとする心配りにより、心理的に疲弊してしまうことがよくあります。こうした際に必要とされること、それは、人間関係を築くときの考え方とされており、以下のような取組を推奨する心理学者の方もいます。10人のうち、まずは3人を自分にとっての重要な人物と位置付け、交流をする時間とエネルギーの7割、つまり、一人に対して約23%を注ぐようにします。残りの7人には、3割の時間とエネルギーを充てるわけですが、仮にやや苦手とする人が1人いたとしても、自分の約4%の時間とエネルギーを充てるだけと自分に思い込ませることで、心理的負担も少し軽くなり、結果として、こうした考え方をとおして、すべての人との良好な人間関係を築くことにも繋がるという理論です。あくまでも一つの例ですが、参考にはなりそうです。

5月17日(水) 川俣高等学校長

左脳鍛錬

人の脳の中で言語系を担当するのが左脳、図形や空間など非言語系の担当は右脳とされています。そのうち、左脳鍛錬に効果的な取組としては読書が挙げられます。でも、一度だけの読み切り型では、理解の深化を図ることができないようです。一方で、2度3度と繰り返し読むことで、読後の印象は大きく変わるとも言われています。それは、脳の成長により、以前とは異なる状態にいることも要因の一つです。最初に読んだ際に、あまり面白みを感じなかった本を手に取ってみてください。違った解釈による読書ができるので、今度は面白いと感じることもあります。小説であれば、主人公とは別の登場人物に感情移入してみたり、敢えて著者とは異なる批判的な視点により読むなど工夫することで、結果として、本に書かれている内容を多角的に読み込むことができます。

5月16日(火) 川俣高等学校長

柔軟発想

果実生産、特に桃の生産に力を入れている県が、かつて、出荷前にその甘さを正確に測ることはできないかと考えていたそうです。会議中に、宇宙から地球の地下資源を探査する人工衛星があることを思い出した職員が、地球も桃も同じく丸いのだから、地球でできることは桃にも適用可能だ、と発言します。ランドサットと呼ばれた人工衛星は、軌道を回りながら地球に当たって反射してくる太陽光を捉えて分析を行っていました。岩石は種類ごとに波長の異なる光を吸収するため、埋蔵されている鉱石の見当がつく、という仕組みだそうです。県果実連からその話を持ち込まれた金属鉱業も最初は驚いたそうです。でも、地球も桃も同じく丸い、という職員の言葉に、専門家も納得したというから興味深いものです。そして、2年の歳月をかけてできあがった機械は、桃1個あたり0.13秒で、その糖度と水分を測定できるようになったそうです。切ってみなければわからなかった桃の中身が瞬時にわかるようになったことは、果実業界に大きな進化をもたらしました。

5月15日(月) 川俣高等学校長

工夫に次ぐ工夫

衣類をしまう際に使用する防虫剤には、樟脳やナフタリン、パラジクロルベンゼンなど刺激臭の強いものが使われていました。匂いが虫を寄せ付けない効果がある一方で、その匂いのために購入を控える人もいたそうです。着る前に一日陰干しをして風に当てると、その匂いはある程度消えますが、面倒である、との声も多く寄せられたため、企業は、防虫剤は匂うもの、という常識を覆す商品開発を始めました。そして、防虫剤に使用されていた成分を科学的に合成するなどして、無臭薬剤の開発に成功します。容器の形も工夫して売り出すと売上が伸びたそうです。でも、液状の無色無臭の薬剤を染み込ませた布を使用していたため、今度は、見た目には残量がわからない、との声が寄せられるようになりました。こうした事態も、防虫剤の着色化を図ったり、容器表面に付けた色が変わるときが残量無しのサインとするなど、再度の工夫により即座対応をしたそうです。その時その時に最高値であったものも、時代の変化とともに変容を遂げるのは、これまでの歴史を見ても明らかです。何事においても、常に創意工夫を要します。

5月12日(金) 川俣高等学校長

十人十色

人が10人集まれば、皆の個性が異なっていたり、別々の選択をしたりするのは当然で、まさに十人十色です。考え方には多様性があること、また、少なくとも10種類程度のモノが常に目の前にあるなど、十分なモノが揃っていることを前提とした良き時代の証でもあります。1960年代の高度成長期が始まった頃には、選択すべきモノに限りがあったことから、十人一色の時代であった、とも言えます。消費者のタイプに応じた商品開発が行われるなど、セグメント市場の時代背景がその要因ともされています。では、今はどうでしょうか。一人の人間の個性は一色ではなくなり、一人が多くの選択肢を持つことができるため、一人十色時代なのかもしれません。時代の捉え方を大きく変える時期は必ずやって来ます。その頻度も高まっています。時代に十分に対応するためにも、各自の力が問われる時なのかもしれません。

5月11日(木) 川俣高等学校長

犬は従順

犬は人の言うことをよく聞く従順な動物とされています。でも、警察犬訓練士の方によると、犬には、従順な心に加えて、リーダーシップを取りたいという、もう一面の心も持っているのだそうです。人間以上に優れていると犬が判断すると、自分がリーダーと思い込むため、それ以降は人の言うことに耳を傾けなくなるというから興味深いものです。一般的な話ですが、欧米では、社会に対する責任を重視する傾向にあるので、飼い主の責務として、犬にも厳しく言い聞かせるため、多くの人が集う場所で、犬は迷惑をかけることなくおとなしくする、と言う人もいます。犬を見れば国民性がわかる、と話す人もいます。

5月10日(水) 川俣高等学校長

友人の大切さについては、入学式や集会時に、生徒の皆さんに多く話してきたところです。当たり前のことですが、自分を除けば、一つの集団は自分とは異なる存在から構成されています。その自分以外の他者を受け入れることで、人は自分を再発見できる、とも言われています。自分とは異なる存在の事実を知り、認めることで、人は己を知ります。仮に、自分だけ、あるいは、自分に似た近い存在のみ認める姿勢しか持たないとすれば、同類が集うのみで自己発見にはいたらない場合もあります。ソローは『森の生活』の中で、「太鼓の音に足の合わぬ者を咎めるな。その人は、別の太鼓に聞き入っているのかもしれない。」と書いています。友情形成には、寛恕の心を要します。

5月9日(火) 川俣高等学校長

眠れぬ夜

何か気になることがあると、眠りたくても眠れないときがあります。そうした際にはどうすることが有効な手立てなのでしょうか。耳を澄ますよう心がけることを推奨する人がいます。虫の声、雨の音、あるいは車の音でも構いません。こうした音を無心に聴くことで眠りに陥るのだそうです。聴覚に意識を集中すると人は考え事をしないため、だそうです。そう言えば、羊を数えるよう勧められたこともありますが、頭の中であっても、視覚に繋がる意識が芽生えることでかえって目が冴えてしまう、という説もあります。生徒の皆さんも、何らかの方法を探ってみる価値はありそうです。

5月8日(月) 川俣高等学校長