令和4年度

2023年6月の記事一覧

道を求める

幸福を求めるのは人として当然のことです。でも、周囲を見渡しても、どこにも幸福は落ちてはいません。幸福とは、そこにあるものではなく、幸福にするものだからです。一方で、幸福になるために、遠くに道を求める人もいます。でも、意外に近いところに幸福になるきっかけはあります。以前に本投稿において、メーテルリンク著『青い鳥』のお話をしたことがあります。青い鳥(幸福)を探して森を駆け巡り、結果として、その青い鳥は自分の家のカゴの中にいた、という童話です。生徒の皆さんが抱える悩みを解決する術はずっと身近にあります。また、悩みを相談する人もずっと身近にいます。孟子も、道は近きにあり、却(かえ)って之(これ)を遠きに求む、と話しています。生徒の皆さん、再度、じっくりと周囲を眺めてみてください。

6月30日(金) 川俣高等学校長

一体化

外敵から身を守るために、動物はよく周囲の環境に溶け込み、自分をその一部に見せたりします。石を隠すなら石の中、人に隠れるなら人の中、という諺もあります。こうした保護色の処世術ともいうべき行動は、人の世界にも取り入れられています。身を隠すという意味合い以上に周りと一体化することは、多くの良き側面を持つことは、借景(しゃっけい)の概念からもうかがえます。目の前にある庭の景色に周囲の自然を取り込んで、眺め全体を色合い豊かなものに変える作庭技法は、文化の深みすら感じます。人は昔から、そして今でも、自然との融合、そして、人との融合を目指して生活を営んでいるのだと思います。

6月29日(木) 川俣高等学校長

将来への不安

生徒の皆さんが自分の将来を考える際に、一抹の不安を感じることがあると思います。見知らぬ世界に飛び込もうとしているわけですから当然のことです。ホームとアウェイ、どちらかを選択しますかと問われれば、安心感に満ち溢れた、勝手知ったるホームを選ぶのと同じ意味合いを持ちます。でも、予想できることと予想できないことが入り混じり、不規則に物事が起きることを偶有性と言い、人は、この偶有性を避けることはできない、とされています。アウェイに強くなることは、この偶有性を楽しむレベルに達すること、とも言えそうです。そういえば、夏目漱石著『三四郎』の中に、ロマンティック・アイロニーという言葉が出てきます。自分の将来をどうやって歩んでいくのかについて、自分の内面に向き合って考える場面を指します。このプロセスを経験することも非常に大切です。生徒の皆さんには、偶有性の瞬間を楽しんでほしいと思っています。是非、ロマンティック・アイロニーにも直面してほしいと思います。ホームの常識が通用しない未知との出会いは、きっと皆さんを大きく成長させてくれます。

6月28日(水) 川俣高等学校長

おぼえ唄

平安京は、都市計画に基づき整然とした碁盤目状に造られたので、どこを歩いているのかわからなくなることが多くありました。位置を指し示す看板等も少ないため、人は、「まるたけえびすに(丸太町、竹屋町、夷川、二条) おしおいけ(押小路、御池通) あねさんろっかく たこにしき しあやぶったか まつまんごじょう」と、通りの名の順に唄にして暗記したそうです。京の通り名おぼえ唄、といいます。この部分は京の中心部ですが、北は鞍馬口通から南の七条通まで、唄は揃っています。そういえば、膨大な量の知識を記憶する際に、語呂合わせをよく用います。2年生の皆さん、これで、今年10月に行われる修学旅行の京都班別研修時に迷うことはなさそうですね。

6月27日(火) 川俣高等学校長

右手左手

車の組立てには多くロボットが使われます。今でもそうかもしれませんが、コンベアの上を車のボディが流れてくると、左右に配置されたロボットから長い腕が伸びて溶接をします。ある会社では、溶接ロボットのケーブルが切れる事案が多く発生しました。ケーブル交換のためにはラインを止める必要があり、生産計画にも大きな影響が出ます。左右対称になるだけで腕の動きは全く同じなのに、左側のロボットの断線が多い理由も当初はわかりませんでした。ある社員が自宅の風呂に入りタオルを絞った際に、自分の腕の筋肉の動きに注目したそうです。会社に戻り並んだロボットの表面カバーを取ってみると、すべてのケーブルは右巻きになっていることを確認します。右側に並んだロボットは右巻きのケーブルを絞る方向に動くため、ケーブルに無理がかかりません。一方で、左側のロボットは正反対の方向に腕を振るため、ケーブルに大きな負荷が加わり、早い断線に繋がったようです。左側設置のロボットはケーブルを左巻きにすることで断線事故は大幅に減少し、生産ラインが止まることもなくなりました。生活をする上でも、ものの形状を知ることは大切です。加えて、どんな分野においても、課題解決のヒントの多くは、現場を離れた意外な場所に潜んでいます。

6月26日(月) 川俣高等学校長

妥協なき取組

どんな状況や環境下においても自分の力を発揮できるようになるには、努力して道を極めることが求められます。『巨人の星』の星飛雄馬や『あしたのジョー』の矢吹丈もそうでした。また、そうした主人公の価値観を受け入れる読者や社会でもありました。人のごく一部だけを捉えて、才能があると評価したり、恰好いいと感じたりしている場合があります。『SLAM DUNK』の作者井上雄彦氏は、毎回必死になりアイディアを引き出し、ネームと格闘しながら全身全霊をかけて作品と向き合い、ペンを入れるなど徹夜して、完成するのは締切の朝、ということがよくあるといいます。『20世紀少年』の浦沢直樹氏も、ネームを書き終えると、まるで全力疾走をしたかのように全身汗だくになっていることが多くあると聞きます。人の脳は、ギリギリの状態に追い込むことで大きな発展を呼び込む、と言われています。生徒の皆さんも、自分の脳を追い込む余地がまだ残されているかもしれません。

6月23日(金) 川俣高等学校長

信 頼

生徒の皆さんが就職し、仕事で課題に直面した際に、社内マニュアルを読み込み、そこから得た解答を基に取り組むことについては、一定の評価を得ることと思います。でも、すべての解答が社内マニュアルに反映されているとは限りません。一方で、周囲からの早期の評価を気にするあまり、目先の100点を狙っても、その場しのぎにしかなりません。大切なことは、早く答えを知ること以上に、答えを導く力を身につけることです。その学びには、同僚である仲間の存在が大きいと言われます。仲間は、皆さんが想像する以上に皆さんを見ています。信頼できると判断すれば、仲間から大きな協力を得ることができます。スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』には、人は他者に対して銀行の口座のように信頼の残高を持っていて、何かが起きるごとに信頼残高を増やしたり減らしたりしている、と書かれています。少しだけ立ち止まり、相手をよく見て学び、相手に自分のことをよく見てもらうことは、信頼や理解の構築において遠回りになることはありません。

6月22日(木) 川俣高等学校長

文の画像化

文章を読むことと理解することは異なるようです。文字を追うだけではなく、読んだ内容を画像としてイメージできることを真の理解の基準とする人もいます。絵には、色や形、配置など細部にわたり具体化することが求められます。物語を読むのであれば、情景描写を、論説文を読むのであれば、グラフや図式などをイメージできれば読書も楽しくなり、理解の深化を図ることもできます。さらに、周囲にいる人に対して、本をとおして自分の把握したことを話してみるのも効果的です。ビブリオバトルという企画に参加すると、自分の読んだ本の感想を伝える技術力向上を図ることができ、一方で、他の人からの話を聞くことにより、新たな切り口に気づくことも多くあるそうです。インプットに加えアウトプットすることで、情報の全ての側面を理解することができます。

6月21日(水) 川俣高等学校長

視点の変化

カップ麺が世に出てかなりの月日が流れます。販売当初に伸ばした売れ行きは、数年経つと一定の頭打ち状態に陥ったため、各社では、麺、スープ、味など様々な観点から改良を加えます。そうした中、カップ麺の消費者層に注目した会社がありました。当時、その会社の商品の約70%が、中学から大学までの男子が食しているとのデータの下、開発グループはカップ麺の増量を試みる提案を行います。確たる理由もなくカップ麺はこの量、とされてきたことへの視点の変化です。1.5倍程度の増量カップ麺は評判を呼びます。同開発グループは、増量を好む人がいるのであれば、減量を好む人もいるはず、との思いから、0.5倍の商品開発も手掛けます。目の前の常識は将来の非常識、という認識を持つことから柔軟な発想は生まれます。生徒の皆さんが感じている以上に、世界は瞬時に大きく変化します。

6月20日(火) 川俣高等学校長

天使の囁き

北海道旭川の少し北に、零下40℃を超える気温も観測されたこともある幌加内(ほろかない)町があります。柱など木材に含まれる水分が凍って膨張してお互いに押し合うことで生じる音が、静まり返った夜更けに鳴り響く「家鳴り」と呼ばれる現象も度々起こります。でも、家鳴りがあった翌朝には、運が良ければ、自然の贈り物、ダイアモンドダストを見ることもできるそうです。その様子は、まるで天使が囁きかけているようにも思えるほどの美しさだそうです。かつて、若い人が多く故郷を離れる傾向にあったのは寒さのせい、と考えていた町の人は、耐寒訓練を行う登山家、及び、寒冷地仕様車やスタッドレスタイヤなどのテストを行う自動車メーカーが多く幌加内町を訪れるのを目にして、寒さを味方につけるとともに、寒さを前面に押し出す企画を考案し始めます。北大演習林内にあるログハウスに泊まってもらい、寒さを体感しながら大学教授の話を聞いたり、雪の結晶のレプリカ作りなど貴重な体験をできるよう、工夫に工夫を重ねました。弱点と思っていたことが、見方を変えれば、実は最大の強みであった、ということはよくあります。ちなみに、1986年に、天使の囁きを聴く集いと名付けられたこの企画は、内容の一層の充実を図るなどして、今も開催されています。

6月16日(金) 川俣高等学校長