令和4年度

2023年7月の記事一覧

決断の瞬間

人は瞬時を生きており、その中には多くの決断を要する瞬間があります。歴史上有名とされる人は、的確にその一瞬を捉え、そして的確なる決断のできる天賦の才があった、とする指摘もあります。生徒の皆さんにも、間違いなく決断の瞬間は訪れます。その時が輝ける瞬間となるかどうか、それは、それまでに培った教養や知識によります。同時に、その決断が輝けるものであったかどうかは、その時以上に、後になってわかる場合もあります。ナポレオンは「四千年の歴史が見下ろしている。」という言葉を発したそうです。四千年後に自分はどう評価されているのか、その責任をもち行動する、との自戒とも解されています。人生の決断には、常に歴史の重みが伴います。

7月31日(月) 川俣高等学校長

神 妙

ミロ90歳、ピカソ91歳、シャガール97歳など、世に知れた画人には長寿を保たれた方が多くいます。奥村土牛氏101歳、横山大観氏も89歳でした。これは体力以上に、絵を描くことへの執念にも近い気力の充実がもたらしたもの、とも言えます。江戸時代の浮世絵師葛飾北斎氏は、こう記しています。「いま73歳になって、ようやく描くものの生命の在りどころが見えてきた。80歳になれば、ますますこの一筋を進み、90歳でその奥意を極め、100歳では神妙の域に達するだろう。そして、110歳になれば、この筆から描き出される点も、線も、生けるがごときものとなろう」。生徒の皆さん、私たちには、まだまだ伸びしろがあることを痛感しませんか。

7月28日(金) 川俣高等学校長

孤独と向き合う

金沢出身の室生犀星氏は、「ふるさとは遠くにありて思ふもの」と表現したことで有名です。彼の詩には、都会に生きる孤独の思いが根底にある、とも言われています。周囲に多くの人が集っていても、常に誰かが傍にいるわけではありません。時の長さは異なりますが、誰にでも一人になる場面があります。孤独は自分を見つめる瞬間なのかもしれません。室生犀星氏は『室生犀星詩集』に、こう綴っています。「きよい孤独の中に住んで 永遠にやって来ない君を待つ うれしさうに 姿は寂しく 身と心とにしみこんで けふも君をまちうけてゐるのだ それをくりかえす終生に いつかはしらず祝福あれ まことの人のおとづれのあれ」と。孤独から目を背けることは、真の自己に出会うことを拒むことにつながるのかもしれません。また、孤独と正面から向き合うことにより、「まことの人のおとづれ」、つまり親友との出会いがあるのだとも感じます。

7月27日(木) 川俣高等学校長

技術者

商品開発において、1%の可能性があればそれを信じて取り組むのが技術者の姿勢、とされる中、次のような「ぎ術者になってはいけない」と話している、ある会社の社長さんがいらっしゃいます。①やりますと言うものの、目標達成を図ろうとしない欺術者 ②できない理由は述べるものの、どうすればできるようになるのかを述べることのできない偽術者 ③頑張りますとは言うものの、そのやり方を説明できない疑術者 ④専門用語を使って話はするものの、やることが理屈から外れている擬術者。さて、どれも厳しい言葉に思えます。でも、企業は人の生活を一層豊かにする宿命を担う存在なので、その達成を図ろうとする本気度も自然に高くなります。ちなみに、その社長さんは自分に対しても、以下のような「こう害をしない」よう心がけているそうです。①柔軟な対応ができない硬害 ②考えすぎて実行に移すことのできない考害 ③じぶんの考えは常に正しいと思い込み、他者の意見を取り込まない抗害 ④あまりにも細かいところまで仕事に口をはさむ口害

7月26日(水) 川俣高等学校長

人、一生、一万冊

これは、二宮尊徳氏や福沢諭吉氏など多くの方が話されている言葉です。読書をとおして、人は知性と教養を高めることができ、これは豊かな人生にも繋がります。もしもこの言葉を忠実に実行したとすると、日々読書しても27年かかるほどの長期計画ですが、その真意は、人は人生の途中において完成をみることはなく、一生にわたり学びの過程にある、といったことと理解しています。いい本に巡り合ったときの喜びは大きく、まるで親友を得るのと同じ意味合いを持つ、ともされています。また、良書は友の中でも最良の友、という表現もあります。身近な読みやすい本から始めて、一生の財産を作ってみるのもよいと思います。

7月25日(火) 川俣高等学校長

推 論

本を読んでいると、自分の理解できる内容ばかり出てくるわけではありません。そうした場面に遭遇すると、人は推論を働かせます。既に自分が手にしている情報をとおして思いを巡らすのです。でも、その範囲を超えた場面も当然あります。「中原中也はみつばのおひたしばかり食べていた。あるいは葱をきざんだものを水にさらして、ソースをかけて食べていた。自分ではこれくらいの調理しかできなかったとも言えるし、ダダイストをめざす意思が意図的に風変わりな素食を志向させたという側面もある」。これは、嵐山光三郎氏著『文人悪食』に書かれた表現です。大抵の人は、推論してもダダイストはわかりません。ちなみに、ダダイストとは、古い価値観に対抗し、既成概念を否定しようとした、第一次世界大戦中にスイスで起こったダダイズム芸術運動、その推進者を指すのだそうです。読書には、自分にとっては未知の、新たな側面に触れる楽しさもあります。

7月24日(月) 川俣高等学校長

ひらめき

人は、数多くの場面で素晴らしいひらめきを感じます。でも、こうしたひらめきはゼロから生み出されるわけではなく、材料は既に頭の中にあることを前提として、脳内で起こる情報連結こそひらめきである、とされています。よって、素晴らしいひらめきを感じるためには、予め多くの情報をインプットしておく必要があります。多くの本を読み、多くの体験をし、多くの人と話し、試行錯誤を繰り返すことで、人はひらめきの瞬間に立ち会うことができます。

7月21日(金) 川俣高等学校長

異なる

生徒の皆さんはゾウリムシを知っているでしょうか。真核を有する単細胞生物で、身体の周囲にはびっしりと繊毛が生えています。この繊毛が一斉に同じ方向に波打つように動くことで、ゾウリムシは素早く前進することができます。でも、かつて東京工業大学教授であった今田高俊氏は、数本の繊毛が勝手な動きをしていることに気づきます。前進する際には、異分子とも見える、このめちゃめちゃな動きをする繊毛ですが、方向転換をする際には、他の数百本の繊毛がこの繊毛にぴたりと動きを合わせるのです。この数本の繊毛にも、とても重要な任務があったのです。この世に存在しているものはすべて、重要な役割を担っています。

7月20日(木) 川俣高等学校長

仲間の存在

友を持つことの大切さについては、本投稿をとおして何度も話してきたところですが、仲間を持つことについて、生徒の皆さんはどう考えているでしょうか。友との繋がりの原点が友情である一方、仲間の場合、夢や目的が繋がりの原点となります。同じ夢や目的の実現を目指すことが結束力の中心となるため、もしも方向性に違いが生じた場合には、その集団から抜けるなど自由な面も伴っています。関係性にゆるやかさを含む仲間は、気を楽にしながら人間関係を築くことのできる、友にも変わり得る、頼りになる存在です。生徒の皆さん、周囲をよく見渡してみてください。同じ夢や目的を持つ仲間は、想像以上に多くいます。

7月19日(水) 川俣高等学校長

学習効率

一般的に、起床した後の午前中の2~3時間は、脳のゴールデンタイムとされています。睡眠により前日の記憶が整理され、十分な休息も取れていることから作業能率が高まるためです。もともと午前中という時間帯は、脳内物質のセロトニンやドーパミンなどのアミンが優位となり、整合性や気密さ、論理性など高い集中力を要求される作業に向いているともされています。高度で複雑な計算や、冷静さを要する重要な決断などにはこの時間帯を有効活用するとともに、生徒の皆さんには、学習活動に係る目標設定や計画立案などをすることをお勧めします。

7月18日(火) 川俣高等学校長

睡眠中に

人にとって睡眠は重要です。ただ脳を休めるといったこと以上に、睡眠中に大きな発見のヒントを得たとする例は多くあります。たとえば、ベンゼンの亀の甲型の構造式を発見したドイツの化学者ケクレは、ヘビが自分の尻尾を噛んで輪状になっているウロボロスの夢を見て、ベンゼンの六員環構造を発見したとされています。ロシアの化学者メンデレーエフが宇宙にある全ての原子がどういった体系にあるのかを悟ったのも睡眠中であり、化学の教科書にも掲載されている周期表をまとめることができたとされています。もしも目が覚めたときに、生徒の皆さんが昨夜見た夢の一端を覚えていたとすれば、そのことが皆さん自身に大きな影響を与える要素となる可能性も大いにあります。

7月14日(金) 川俣高等学校長

視野の広がり

「白日(はくじつ)山に依りて尽き、黄河海に入りて流る 千里の目を窮(きわ)めんと欲して、更に一層楼(ろう)を上る」と歌った中国の詩人がいます。「太陽は山にかかってその背に落ち、黄河は海に向かって滔々と流れている。その千里の彼方まで見極めようと、楼閣を更に一層上へとのぼった。」という意味の詩ですが、高いところに登ると周囲を見渡すことができる、という、ごく当たり前のことを述べている裏側には、実はもっと深い意味が含まれている、とする人もいます。人は自分の背丈からはあまりものを見ることができないので、もっと先まで見通したいと思うなら、少しでも高いところ、つまり目標に向かって一歩ずつでも歩みを進めていく必要がある、という向上心の尊さを表現している、とする説です。千里の先を窮めたいという強い意思には、人の生き方にも影響を及ぼすほどの力が込められています。

7月13日(木) 川俣高等学校長

水 泳

泳ぐことのできない子を対象にした水泳教室で、子どもたちはプールサイドに敷いた浮輪に腹ばいになり、手足をバタバタさせながら平泳ぎの型を練習しています。15分程経過すると、子どもたちは浮輪を身に付けて水に入ります。顔を水面に伏せようとする子がいると、コーチから、「顔を上げて。水で顔を濡らさないで。」と指示が飛びます。よく見ると、ひと泳ぎした後に、コーチは子どもに知られることなく、浮輪から少しだけ空気を抜いています。やや浮きにくくなった浮輪を付けた子どもたちは、強く手足を動かしながら泳ごうと努力します。でも、2か月もすると、すべての子どもたちが浮輪なしで泳げるようになるのだそうです。これはフランスで水泳を教えている、オリンピックにも出場された方の指導例です。水が怖いから泳げないのではなく、泳げないから水が怖くなる、というのがその方流考え方です。そして、顔が濡れるのを怖がる子も多くいるため、まずは、濡れることの少ない平泳ぎの型から指導を始めているということです。指導法は奥深いものです。

7月12日(水) 川俣高等学校長

機 転

鷹狩に出かけた豊臣秀吉が近江の石田村に立ち寄り茶を所望すると、一人の少年が大きな碗に温めのお茶を用意します。2杯目は先ほどの半分の量をやや熱めに、また3杯目はかなり熱めにして小さな碗に入れて出したので、機転の利くその少年、石田三成を近習として召し抱えた、という逸話は有名です。でも、よく似た話が海外にもあることをご存じでしょうか。インドで狩りに出かけた王子が隣国の村に立ち寄り、足の汚れを落とすために水を依頼すると、末利(まつり)という少女が、太陽に当たり温かくなっている泉の表面の水を汲んで渡します。今度は顔を洗う水を依頼すると、泉の中ほどのややぬるめの水を、更に飲み水を所望すると、泉の最も深いところから汲んだ冷たい水を運んできたそうです。全くといっていいほど同じ逸話ですね。もしかすると、博識な石田三成は、インドのこの話を耳にしていたのかもしれません。あるいは、機転が利くという概念の捉え方が、日本とインド間では同じなのかもしれません。ちなみに、この類似した2つの話については、幸田露伴が指摘しています。

7月11日(火) 川俣高等学校長

仕事の道筋

ある会社の新人社員研修で、ある新聞の全ページに使われている字数を90分で数えるよう指示されたそうです。3つに分けられた班では、その方法について手順を話し合い、作業に取りかかります。1つ目の班は、1人分の担当ページを決めて、それぞれが一斉に数え始めます。2つ目の班は、題字の下に掲載された新聞社の電話番号に電話をして、解答を聞き出そうとします。そして3つ目の班は、全員で1ページ目の傾向把握に努めます。日によって違いはあるものの、平均的な数値として新聞には約12万字が使用されているそうですが、数字や記号を含ませるかどうかなど、不確定要素により正解は異なります。その会社が見たかったこと、それは、正解以上に取り組む過程での姿勢だったようです。1つ目の班のように、エネルギッシュに立ち向かう力は、社会人に必要不可欠とされます。また、2つ目の班のように、電話などの手段を有効活用して情報収集することも大切です。3つ目の班のように、全員で協力して目を通した結果、その新聞の紙面は15段に区切られており、各段には80行から90行あり、その1行には14字程度入っていることを分析する、そうした協力と分析力も求められる力です。課題解決の方法は、準備されているものではなく自分で見い出すものであり、また、正解も一つとは限らない、ということは、いつの時代にも当てはまるようです。

7月6日(木) 川俣高等学校長

過 敏

何かに対して過敏に反応することは誰にでもあります。でも、周囲からの刺激や他者の感情を必要以上に受け止めてしまうと、心理的に疲れてしまうこともあります。こうした傾向は、音や色彩の微妙な違いを感じ取るなど、直観的に察知できるアーティストの方に多く見られるそうです。また、日常の些細な疑問を見つけ出せるなど、素晴らしい才能を持っている人とも言えます。でも、疲労感を感じるまでの過敏な状態にならないよう、以下のような対応を推奨する心理学者もいます。予め、過敏になりそうな要素をできる限り避けることを前提として、頑張りすぎることなく上手に休みを取り入れ、マルチタスクをすることなくシンプルに物事を進め、時には、敢えて人に頼るなどすると、安心感に満ちた生活環境を作り上げることができるようです。

7月6日(木) 川俣高等学校長

人との付き合い

生徒の皆さんが人と話すとき、予めその人に関する情報を集めたりすると思います。でも、そうした情報以上に、今、目の前にいる方と誠意をもって向き合うことは大切です。人は十人十色、これまでの経験値も考え方も様々です。そうした中、もしも自分に似た人と出会うことができれば、それは幸運です。お互いの魂が共鳴することで生み出されるセレンディピティ(思いもよらない幸運)に感謝して、誠実に話をしてみるのも良いと思います。同じ者同士の結びつきは、その力を何倍にもしてくれます。一方で、異なる者の結びつきからも、同種とは異なる大きな力が生じます。緩やかな繋がりではあっても永く続く関係により、多様化する社会への対応力向上を図ることができます。

7月5日(水) 川俣高等学校長

心の扉

新しい環境に身を置くと、どうしても不安が付きまといます。入社して3か月も経ったのに、まだ人間関係をうまく築けていないと感じている新社会人の方もいるかもしれませんが、信頼関係の構築(ラポール形成)には、3か月からそれ以上の月日を要すると言われています。でも、少しでも早く周囲の方々との関係を築きたいとすれば、自己開示を行うことが効果的とされています。自分のことを相手に話す自己開示をとおして、相手は少しずつ心を開いてくれます。複数回会うことも、心が通じ合う段階を飛躍的に向上させてくれます。これを自己開示の返報性の法則といいます。でも、注意してほしいことは、心を開くことを、相手にだけ求めることはできないということです。心の扉のノブは内側にしか付いていません。人は、相手の扉を開けることはできません。自らの心の扉を開く意識を持つことで、良好な人間関係を築くことができます。

7月4日(火) 川俣高等学校長