令和4年度

校長より

精 進

一つの道を極めるには精進を継続することが必要とされます。そのためには考え方を変える必要も生じます。考え方が変わると、徐々に行動が変わります。行動が変わると、結果が変わります。何かに取り組むことには苦しみを伴うこともありますが、その苦しみから逃れようとしたり手を抜こうとしたりすると、結果として、苦しみは継続します。苦楽という言葉があります。苦しみの先には楽しみがある、という意味で、苦楽吉祥とも言うそうです。そういえば、楽には、多くの人が集まる、という意味も含まれていたことがあったそうです。一人だけで苦しみを感じることはありません。友が集まり、協力し合いながら物事に向き合うことで、効果も高まり、楽しくもなります。楽しくなれば、その場に光もあたります。

3月20日(月) 川俣高等学校長

生徒の皆さんには、それぞれ夢があると思います。夢を持つことは良しとされていますが、一方で、夢を追いかけているうちは、夢と自分との間に距離がある、という厳しい指摘をする人もいます。プロのピアニストを夢見て、技術向上に励んでいた方の話です。緊張から、ステージに上がる前に足が震えるのは誰にでもあることですが、うまく弾くことのみ過剰に意識するあまり、結果としてうまく弾けないと感じる場面が多くなったそうです。そのときに考えたこと、それは準備の大切さでした。足の震えは体力の欠如も一因と考え、筋力トレーニングやウォーキングを取り入れます。また、ピアノに向かう際には、うまく弾くこと以上に魂で弾くことを心がけて練習に臨みます。徐々に、鍵を叩いたときに出る音は自分の心そのもの、と思えるようになりました。自分の人間性が貧しければ、そうした音を聴衆の皆さんに届けてしまうと思い、心の鍛錬にも励みます。すると、無の境地でピアノを演奏できるようになったそうです。そして、自分の夢であったプロのピアニストになられました。彼女の名前は、フジコ・ヘミングさんといいます。彼女とピアノの間に、距離は存在しません。私はピアノであり、ピアノは私、と、彼女はよく話されます。

3月17日(金) 川俣高等学校長

京都の法隆寺や薬師寺の宮大工になることを夢見ていた方の話です。建築を学べることから工業高校への進学希望を家族に伝えると、宮大工として一流の地位にあった祖父や父から反対を受け、その意見に従い、彼は農業高校に進学することとなります。そして、3年間懸命に農業の勉強に取り組み、卒業後には祖父や父の仕事の手伝いを始めます。祖父から、「人は土から生まれ、土に返る。木も土に育ち、土に返る。建物も土の上に建てる。土を忘れたら、人も木も塔もない。土のありがたさをわからないようでは、立派な大工になれるはずはない。」との話を聞いたのは、彼が一人前の宮大工になった頃だったそうです。一見すると関係性を見出せないことでも、深く繋がりのある場合は多くあります。ちなみに、薬師寺金堂再建に使用する檜選びを任されたのも彼でした。その候補として、枝や葉に勢いのある樹齢2千年程の老木を勧める人がいたそうです。でも、その枝や葉に養分が取られるため中は空洞となっていることを彼は学んでおり、金堂に使用するには適さないと判断します。一方で、年相応に老いの風格の漂う木は芯がしっかりとしている、などの知識により、的確な判断の下、彼はその重責を立派に果たすこととなります。

3月16日(木) 川俣高等学校長

謙虚の美徳

将棋の世界は、盤上の勝負で対局料が決まるなど厳然たる実力主義に貫かれています。ところが、対局が行われる際に座る位置については趣が異なる場合があるそうです。対局が行われる座敷には床の間があり、それを背にする位置を上座、反対を下座としています。対局を迎える棋士のうち順位の高い方が上座となりますが、将棋の世界の先輩を立てたり、年齢を考慮したりして譲り合いが起こる場合もあるそうです。でも、一定の時間が過ぎると、他の棋士が見ても違和感を感じることがなく二人の位置が決まるというのですから、興味深いものです。棋士に必要とされる資質として、実力と謙虚の美徳の2つをあげる人が多くいます。まさに、座る位置の過程から見ても然りです。

3月15日(水) 川俣高等学校長

組 織

山の南斜面と北斜面に同時に植物を植えるとすれば、南斜面の方が育ちが良くなり、周囲からの注目度も高まります。組織も同様で、リーダーなど目立つ立場にいる一部の人に注目が集まる傾向は確かにあります。でも、植物で言えば、北斜面の木は年輪がよく締まり、木質も堅く丈夫であるために、やがて大きな花を咲かせるようになるのだそうです。一時、陽の当たりが悪いと感じても、そのときに全ての評価が決まるわけではありません。将来の太陽を独占するくらいの意気込みで、目の前のやるべきことに正面から向き合い続けることが大切です。

3月14日(火) 川俣高等学校長

マニュアルをこえる

企業には多くのマニュアルが存在します。顧客対応を要する企業では、2万5千を超えるマニュアルを持つ企業もあるそうです。でも、担当者間には売上実績に差が生じます。マニュアル通りに対応して、どうして差が生じるのでしょうか。そこには、一定の事由があるようです。たとえば、お客様に声をかけるタイミングや、かける声のトーンなど、マニュアル化されていない項目は数多くあります。笑顔で接することは書かれていても、どういった笑顔で接するのかについては、本人に任されます。また、想定外のやり取りが生じた際には、本人判断により対応する必要があります。こう考えると、マニュアルの数を2万5千から仮に5万に増やしたとしても、最終的に問われるのは本人の本質である、ということは間違いなさそうです。生徒の皆さんも、相手へのさりげない、そして、きめ細やかな心遣いができるよう、日頃より高い意識を持ち行動することが大切です。

3月13日(月) 川俣高等学校長

自然美

彫刻でも絵画でも、あるいは音楽でも、人は一つの意図を込めて作ります。そして、その美しさは、私たちの眼や耳を存分に楽しませてくれます。一方で、たとえば、富士山は誰かがあのような形にしようとしたものでないし、また、県内にもある鍾乳洞は、何万年、何十万年という途方もない歳月を経て、その中の石柱や石筍(せきじゅん)が作られるなど、自然が人智の及ばない形や色彩を形成しているものも多く存在します。自然の景観は、誰かの意図により作り出されるものではないので、バランスに欠けたりすることもあります。でも、そこも含めて大きな魅力があります。私たちには、こうした見飽きることのない自然美をこれからも大切にする責任があります。

3月10日(金) 川俣高等学校長

気づき

船に搭載される魚群探知機の発明は、少年時代にラジオいじりの大好きだった、電気店に勤める、ある一人の男性の発想によるものでした。海の底に向けて発信した超音波が反射してくるまでの時間を計測することで、その深さを知る超音波測深器をヒントに、その少年は、海底までの途中にいる魚を探知できないか、と考えます。相談をした大学教授からは、魚の体はそのほとんどが水でできているから、超音波には反応しない、との回答がなされます。でも彼はあきらめずに、直接漁師に魚を獲るコツについて聞いて回り、魚の大群は口から多くの泡を出すので、泡のかたまりが海面に出たところを狙って網を投げ込む、という話を耳にします。水は超音波を通すけれど、泡なら反射可能、と考えた彼は、自信を持って魚群探知機の開発を進めます。後に、彼の魚群探知機は、ベテランの漁師が気づかない魚群をいち早く察知するまでに精度を高めることとなります。ちなみに、魚自体には反応しないとされていた超音波は、その魚にも反応することもわかりました。大きな発明の最初の一歩は、実に身近なところに潜む、ふとしたときに気づく事実、であることがよくあります。

3月9日(木) 川俣高等学校長

感動作

生徒の皆さんは、映画や劇などを観て感動したことがあると思います。良き作品は観た者の心に突き刺さり、思わず感動の涙を流した経験もあるかもしれません。感動的な映像は人の持つ前頭前野の血流を活発にし、結果としてセロトニン神経を活性化するのだそうです。涙を流す前の交感神経優位の状態から、涙を流すことで副交感神経優位に切り替わるため、リラックスと癒しを得ることができます。ギリシャの哲学者アリストテレスも、著書『詩学』の中で、感動の涙は心の中に溜まっていた澱のような感情を解き放ち、気持ちを浄化させる、と述べています。カタルシスと呼ぶこうした状態を体験するためにも、生徒の皆さんに、数多くの良き映画や劇などの作品に触れてみることをお勧めします。

3月8日(水) 川俣高等学校長

想像以上

私たちは、一定の未来予想図を抱きながら物事に取り組みますが、その通りにいはいかない場面にも多く遭遇します。そして、それは、想像していた成果を大いに上回る場合もあります。昭和50年代の始めに、マイコン・チップの新しい販路先を模索していた企業がありました。冷蔵庫やミシンなどへの取込みを考える一方で、アメリカの事例を探ってみると、マイコン・チップを組み込んだ小さなおもちゃの製造をしていることを知ります。会社内で行われた検討会では、ほぼすべての役員がそのおもちゃの製造に反対を唱えます。でも、開発チームの商品に対する熱い思いから、試しに売り出してみよう、ということになり、結果、これが大当たりします。マイコン・チップ付きのプラモデル形式で販売したところ、自分で小さなコンピュータを組み立てる喜びを体験できるため、多くの需要を生み出します。加えて、特殊な電源を要するため、そのアダプタが開発されたり、テレビゲームのような製品ができると、そのゲームを扱う本が出版されるなど、サードパーティーが飛躍的に充実するなどしたそうです。大きな成果が生み出される背景には、常に、真摯に向き合う姿勢があります。

3月7日(火) 川俣高等学校長