令和4年度

2023年10月の記事一覧

一本の綱

セルバンテスの描くドン・キホーテは、風車を巨人と思い込み敢然と立ち向かいますが、風車の羽根木に飛ばされて大怪我をします。従者であるサンチェ・パンサがその無謀な行為を窘めると、彼は、「お前はなんて冒険心がないんだ。勝敗は時の運だ。」と切り返します。どう考えても風車に勝てるとは思えませんが、ドン・キホーテがここで話した冒険とは理想のことである、とする説があります。理想に向かって突き進むことに意義があり、その結果は問うものではない、と解釈すれば、確かにドン・キホーテの行動は頷けます。今いる現実の世界から、前に広がる理想の世界を繋ぐ一本の綱、そして、後ろにも後退を意味する世界があるとすれば、生徒の皆さんはどうしますか。いつまでも、ここに立ち続けますか。それとも、その綱を通って歩みを前に進めますか。現実を理想の世界にまで高めることができるのは、自分しかありません。

10月31日(火) 川俣高等学校長

学 習

大きな口と鋭い歯を持つカマスは小魚をエサにしていますが、条件によっては、その小魚と仲良しになってしまうこともあるそうです。小魚とカマスを入れた水槽に透明なガラスの仕切りを入れて両者を分けてみます。最初のうち、カマスは小魚を食べようとしますが、何度試みてもガラスに頭を強くぶつけ痛い思いをします。しばらくすると、小魚には口が届かない、とでも思うのか、ガラスを取り除いた後でも、カマスは小魚を食べようとはしなくなるのだそうです。ちなみに、仕切りのない水槽に別のカマスを入れると、その新しいカマスは小魚を追い回すので、それを目にした前のカマスも本能を取り戻し、同じ行動をするのだそうです。環境は、本来持っている本能をも変えてしまうほどの力を持っています。

10月30日(月)川俣高等学校長

中国前漢時代の哲学書『淮南子(えなんじ)』に、移り変わりは深い意味を持つため予測することはできない、という意味を持つ「化(か)、極むべからず」という言葉があります。古代ギリシアでは、ヘラクレイトスが万物は流転するという意味で、「パンタ・レイ」と称しました。いつの時代にも変化はありましたが、近年のそれは、これまでを凌ぐ勢いであることを私たちは体感しています。変化する社会情勢をどう捉えるのか、たとえば、これまでの常識を適用できないことを嘆くのか、あるいは、柔軟な発想を受け入れる土壌があることを喜ぶのか、によって、生き方自体も大きく変わってきます。今日という1日の間にも生じる変化を、生徒の皆さんはどう感じるでしょうか。

10月23日(月) 川俣高等学校長

さて、本校では、明日より修学旅行が実施されます。

次回の投稿は10月30日(月)を予定しております。

測定できないもの

数量化できたり測定できるものについては学びやすく、また、理解もしやすい概念とされています。でも、社会が求めるものには、数量化できないことや測定できないことが多く含まれます。「何でも測定するように教育されてきた人々は、測定できない経験を見逃してしまう。彼らにとって測定できないものは第二義的となり、彼らを脅かすものとなる。」と、イヴァン ・イリッチも述べています。では、社会が求めることとは具体的には何でしょうか。様々な観点から考えることのできる柔軟性や想像力、豊かな感受性、枠にとらわれることのない創造力など、人として欠かすことのできない能力を指します。そして、学びに向かう意欲こそ、これらを身につけるためには必要とされます。「食欲がないのに食べるのが健康に良くないように、欲望を伴わぬ学習は記憶を損ない、記憶したことを保存しない。」と、レオナルド・ダ・ヴィンチも『手記』に書いています。意欲的な学びに没頭しているとき、人は充実感に満ち溢れているので、無駄に時を失うこともありません。

10月16日(月) 川俣高等学校長

メタ認知

生徒の皆さんは夏目漱石氏の本を読んだ経験はあるでしょうか。高校の英語教師であった彼がイギリス留学を体験しなければ、『吾輩は猫である』は生まれなかったとも言われています。イギリスという異国で、他者の眼をとおして自分を見つめたことから新たに知ったことは多く、こうした第三者としての目線で自分を見つめ直すことを心理学用語でメタ認知といいます。自分の安心できる場所にだけいて、これこそ自分のあるべき姿、として自己肯定をしていると、自己否定することができなくなります。実は、自己否定からも成長の機会は生じます。自己否定をすれば自己の存在がなくなる、と考えている人は、結果として成長機会を自ら放棄していることにもなります。人は様々な可能性を秘めています。自分で気づいているそれは、多くの可能性の中のほんの一部です。アウェ-に足を踏み出すからこそ、自分の良さについても、多くの周囲の方々から指摘を受けることができます。

10月13日(金) 川俣高等学校長

社会的知覚

人の立場によって、描く硬貨の大きさに違いが生じるのだそうです。たとえば、学生の方に500円硬貨を描いてもらうと、その約70%が実物よりも小さく描くのだそうです。同じことを親の世代の方々に依頼すると、逆に70%の人が実物と比較して大きく描くというから興味深いものです。これは社会的知覚と呼ばれるもので、その対象に対する思いや関りの深さが反映するとも言われています。学生の方は一般に親からの仕送りを受け生活する一方で、親はお金の調整をやりくりするなど苦労がある、このことが背景にあるようです。生徒の皆さんが何かを描いてみると、それに対する自分の思いの深さを判断することができます。

10月12日(木) 川俣高等学校長

大きく見える

1985年のプロ野球日本シリーズは、阪神タイガースと西武ライオンズの対戦でした。そして、セリーグペナントレースの三冠王がバース選手でした。試合が間近に迫ったある日、心理学を研究している大学の先生が、西武の主力選手5人にバース選手の身長を尋ねてみたところ、188センチから200センチの間で回答を得ました。ちなみに、実際のバース選手は181センチだったので、西武ライオンズの5選手すべてが、実際よりも7センチから19センチも高い身長と思い込んでいたようです。すごさを感じるとその相手は大きく見える、といいます。心理学でいう光背効果という現象です。ちなみに、この日本シリーズにおいて、バース選手は初戦で決勝のHR、2戦目でも逆転のHRを打つなど活躍し、最優秀選手となりました。

10月11日(水) 川俣高等学校長

大きく見せる

人はなぜ二本足で立つようになったのでしょうか。鋭い爪も牙も持たない人間が生活をするには、二本足で立ち上がり身体を大きく見せる必要があった、とする説があります。相手への威嚇の意味からすると、インドネシアのコモド島に生息するコモドオオトカゲも立ち上がります。手を使うために立つようになったとする説もありますが、一方で、立つようになり手が使えたため、手や指、脳の発達を導いたとする学者もいます。私たちが立ったままじっと見ていると、敵意があると判断した動物が人を襲ってくる場合もあるそうです。動物園に行くと、サルのいる檻の前に、サルと目を合わせないでください、という注意書きがあるのはこのためです。では、立つことを覚えた人間が、相手に対して敵意がないことを示すために用いたことは何でしょうか。笑顔です。微笑みを相手にはっきりと伝えるよう、人間の唇は赤く目立つようになった、とする説もあります。様々な経験を経て、今があります。

10月10日(火) 川俣高等学校長

折れたバット

阪神電鉄の取締役であった山崎登氏は、従来の枠からはみ出して行動することでも知られています。スキー場や植物園、遊園地や園芸部門など、会社の手掛けるあらゆる部門で業績を積み、甲子園球場のグランド整備を担当していた時期もありました。その当時、阪神タイガースの4番は掛布雅之氏でした。読売巨人軍を甲子園に迎えた3連戦は既に2敗し、最終戦もリードを許す展開の中、終盤に1アウト満塁で掛布氏に打順が回ります。当時掛布氏は、長くヒットやHRの出ない不調の時期にありました。多くのタイガースファンが逆転満塁HRを期待する中、打球はボテボテのセカンドゴロ、併殺で攻撃が終了します。その打席のときに1本のヒビが入ったバットは、試合終了後に1塁側ダグアウトにそっと立てかけて置かれていたそうです。山崎氏は球団に許可を得て、そのバットをもらい受けます。「人生なんて恰好いいことばかりではない。失敗と挫折の連続なんです。」後に山崎氏は、そう話します。そのバットについても、「夢が断ち切られ、ボテボテの併殺打でバットが折れる。でも、そのほうが、よほど現実の人生を反映している。」とも話します。山崎氏は、練習の虫と称される掛布氏の陰の努力を知っているのです。ちなみに、一時のスランプを脱した掛布氏はその後、HRを量産し始めます。苦しいことや思い通りにいかないとき、山崎氏は必ず、そのバットの前に立つのだそうです。

10月6日(金) 川俣高等学校長

刺 激

イギリスの経済学者であり歴史家であったアーノルド・トインビーは、生け簀にナマズを1匹入れておくとニシンが長生きする、と述べたことがあるそうです。沖で獲ったニシンをできるだけ生かして持ち帰りたい、との漁師の方々の思いに対する回答とされているこの表現には、次のような背景があったようです。普段見慣れないナマズが近くにいると、ニシンは気になり緊張するため、その気持ちの張り、言い換えれば刺激から生き続けるのだそうです。組織には毎年、新しく社員が入ってきます。その存在自体が組織に活力を与えるとともに、新たな視点が斬新な商品開発のきっかけとなることも多々あるそうです。生徒の皆さんもいつか、新入社員になる日が訪れます。

10月5日(木) 川俣高等学校長