令和4年度

2022年10月の記事一覧

先読み

研究とは何か、と問われると、多くの研究者は、自分の持っている技術を意味するシーズ(種)と、社会が求めているニーズを線で結びつけること、と答えます。でもやっかいなことに、シーズもニーズも日々変化します。昨日まで不可能であったシーズが翌日には可能となることもあれば、社会のニーズであったものが、他社の製品開発により、一瞬のうちに不要となることもあります。いわば、動いているもの同士をどうやって結びつけるのか、ということに関わること、それが研究なのです。では、研究で大切にしなくてはならないことは何か。いずれはこうしたことも必要になるだろうとの予測の下、自分のシーズのレベルを磨き上げようとする志を持つことです。加えて、目の前のニーズを追いかけたとしても、時間の経過とともに、あるいは瞬く間にそこからなくなるのであれば、5年先、10年先を見通す先読みの力もまた、同様に大切な要素です。変化の激しい時代であるからこそ、先読みの重要性は一層増しています。

10月28日(金) 川俣高等学校長

課題解決

何らかの不具合が生じた際に、即時にその解決を図ることは重要です。でも、偏った考えや、力を入れ過ぎた状態で事に臨むと逆効果の場合もあります。赤の眼鏡をかけていれば、そこに赤色があっても見逃してしまうように、色眼鏡をとおしてものを見ようとすると、ものごとを素直に見ることができなくなります。また、自分が何とかしようとする強すぎる思いにより、一部のみ見て全体像を把握しようとしない傾向に陥る場合もあります。ものごとを一段異なる次元からじっくりと眺め、冷静さの下、対応することで、改善の可能性は大きく高まります。

10月27日(木) 川俣高等学校長

規格外

宇宙開発は、行ったこともない場所に向けて、動かしたこともないものを1回で完璧に動かすことを求められるなど、過酷なものです。すべて、予測と計算の下で行われる作業に従事していると、どうしても安全志向に陥るのだそうです。「はやぶさ」を打ち上げたとき、3つ搭載した、リアクションホイールという制御装置のうち、1台目が1年後に、2台目が2年後に壊れたそうです。残った3台目も、同時期に同じ設計で作られているため、同じ使い方をすれば近く壊れるだろうし、またそれは、「はやぶさ」をとおした調査研究を、一旦は終えなければならないことを意味する、と考えた宇宙航空開発機構の方々は、熟慮の末、飛行スピードを落とす提案をします。一方、製造メーカーなどからは、飛行スピードを落とすなど規格外のことは、かえって危険度を増す、との意見が出されます。慎重な検討により、同開発機構の提案通り、飛行スピードを落とすことで運用し、結果として、3台目のリアクションホイールは7年間も稼働し続けることとなります。安全志向から舵を切ったことによる、成功事例とされています。後に、このときの決断について問われた際に、「はやぶさ」を提案する10年程前に、当時取り組んでいた小惑星接近計画をNASAに先取りされたことへの意地も少なからずあった、と、同開発機構の関係者の方は話されていました。

10月26日(水) 川俣高等学校長

我が事

私たちは、いわば慣性の法則がごとく、毎回、決められたことの繰り返しをしている場合が多くありますが、そこからは大きな進歩は生まれません。ある企業では、年間に約60万件もの改善提案が出され、検討の後に、その90%が実行されるのだそうです。当然、自社製品の品質向上とコストダウンを図ることができます。見学に訪れた他企業の方が、「どうして、これだけの改善ができるのですか。」と尋ねると、「なぜ、できないのですか。」と、逆質問を受けたそうです。自分の考えが反映されるとなれば、社員の、会社を見る目線にも力が入ります。自分たちが会社のエンジンとなっている、といった自覚も高まります。会社を一層良くする原動力、それは、常に現場にあります。

10月25日(火) 川俣高等学校長

コメント

小説家である壇一雄氏がパリを訪れたとき、街頭で、日本の大きなリンゴと比較して明らかに小さなリンゴを目にしました。フランス在住の友人が勧めるので、半信半疑で一口齧った壇氏は、その美味しさを次のように表現したそうです。「美味しいからと言われて齧ってみると、小さいながら、なにかこう、緻密(ちみつ)な、フクイクとした香気のようなものが感じられた」。実の詰まったリンゴを、硬い、とは表現せず、普段は味に関しては使わない緻密としたところに、言葉の選択の素晴らしさを感じます。フクイクとは、漢字で馥郁と書き、いい香りが漂う様を言うのだそうです。馥の右側の字は、ふっくらとした、という意味を含んでいるため、香を加えて「フクイクとした香気」とすることで、その様子が手に取るように伝わりますね。何かを問われたときに、咄嗟に含みのあるコメントで応えることができたら、周囲の人を和ますことができる、と、いつも思っています。

10月24日(月) 川俣高等学校長

3人寄れば

会社では、改善提案を求められる場合がよくあります。一人で考えることもできますが、複数人で考えると、様々な意見の集約ができる環境が整います。いわば、3人寄れば文殊の知恵作戦です。改善提案には、課題に気づき、その改善策を考え、それを形にして実行する、という3つのプロセスを必要とするので、3人がそれぞれ得意とする分野を担当することにより、一層効果的な取組にすることができます。「孤立した状態では実力を発揮しにくい人も、組織された社会において、その不足を補填できる」という、心理学者アルフレッド・アドラーの言葉もあります。お互いを支え合うからこそ、大きな成長や成功がもたらされます。チームとは、助け合い、補い合いながら成長を遂げる場なのです。

10月21日(金) 川俣高等学校長

過 去

私たちの経験値は、過去にどう対処したかを拠り所として高めていく側面があります。でも、変化の激しい時代に過去の成功事例にだけとらわれると、それが原因で大きな失敗につながる場合もあります。世の中が変化の中にある現在、過去の蓄積である常識が変容を遂げています。今後は一層、変化に対応する力が求められます。それは、一つには、変化を予想し、どのように対応すべきかを考える柔軟性であり、また一つには、既存の常識を覆す挑戦をとおして不可能を可能にする、本質を見極める力です。本質を見抜いて自分の中で単純明快化し、一つひとつの事象に立ち向かい解決していく過程は、難しいと感じる以上に、むしろ楽しいことにも思えます。

10月20日(木) 川俣高等学校長

PDCA

今では一般的な表現となったPDCAサイクルですが、この言葉が世に出た当初には、本来「Plan計画、Do実行、Check評価、Action改善」であるべきところを、「Plan計画、Delay遅延、Apology謝罪、Action改善」と読み間違えていた人が多くいたそうです。それほど、計画した通りに事は進まない、という現実がありますが、最も問題となるのは、Do実行にあります。やればそれでいいのか、と問われると、そうではありません。やり切ることに意義があります。中途半端で投げ出すことなく結果が出るまで実行し、ダメであれば、ダメな結果を正面から受けとめることが、真の改善につながります。ある種の執念とも言える「やり切る力」は、将来の成功に欠かすことのできない要素です。

10月19日(水) 川俣高等学校長

オンオフ

仕事を極める人には、仕事中には集中して取り組む一方で、休日になると、ある意味集中して、趣味に没頭して過ごすタイプの人が多く見られます。いわば、一流の仕事人とは、オフの過ごし方が上手な一流の趣味人、であるようです。こうしたオフの時間に良質なインプットをすることで、仕事に関する発想力や活力が生み出されます。

10月18日(火) 川俣高等学校長

様々な角度から

現在では、スマホやパソコンを使えば、すぐに一定の情報を集めることができます。でも、その情報は既に誰かがまとめたものであり、新たな側面を示してはくれません。以前には多くいた、見えないものを見ようとするタイプの人が少なくなり、今では、見えるものを確実に見ようとするタイプが多い、との指摘もあります。例えば、植物の研究をするのであれば、膨大な資料を集めて読み込むことに加えて、実際に外に出かけ、対象とする植物を、正面から、横から、真上から、そして土に埋もれた中まで見ようとする姿勢こそ大切です。39億年にもなる地球の歴史をヒシヒシと感じながら、太陽エネルギーの下で育つ生命のドラマに直面するのは、何かワクワクしませんか。植物に限ることなく、どんな分野に関わろうとも、見えないものを見ようとすれば、そこには必ず、筆舌に尽くしがたいロマンがあります。

10月17日(月) 川俣高等学校長

集団の在り方

会社では、集団により、一つの目標達成に向けた取組を求められることが多くあります。アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏のように、圧倒的な個の力により、企業を急成長させる場合もありますが、通常であれば、集団で行う意見交換等をとおして開発は行われます。ものづくりで大切なことは、メンバーの間の信頼感、そして共有意識とされています。集団である以上、そこにリーダーは存在しますが、リーダーが一人で100人分悩むよりも、100人のメンバーで1人分ずつ悩む方が、結果として集団のコンセプトは固まりやすく、修正や深化を図ることも容易とされます。1人の100歩よりも、100人が1歩ずつ歩みを進めれば、1歩進んだ100人全員が、それぞれ確実に成長を遂げるので、集団の力は一層大きくなります。

さて、本校は明日より修学旅行となります。次回の本投稿は、10月17日(月)を予定しております。

10月11日(火) 川俣高等学校長

ゼロからイチへ

人は大抵、前回取り組んだことを基に次回に備えます。つまり、既に持っている1(イチ)に掛けることで、2や3などにしていきます。でも、これまで自分が身に付けてきた知識や経験をすべて消し去り、全くの0(ゼロ)からやり直す場合には、前年踏襲の考えは通用しません。0を1にするエネルギーは相当なものです。こうしたときに、絶対に頭に浮かべてはいけないのは、「どうせ無理」という類の言葉です。この言葉からは、何一つ新しいことは生まれません。これまで様々な開発に関わってきた多くの方々は、過程で失敗をしても常に前を向き、挑戦を繰り返し、0を1にしてきました。今後、この使命を引き継ぐのは、生徒の皆さんです。

10月7日(金) 川俣高等学校長

時間による拘束

「人に対して平等に与えられた1日24時間は、使い方次第で36時間にもなるし、12時間にしかならないこともある。」。生徒の皆さんは、こうした趣旨のことを言われた経験があると思います。好きなことには長い時間でも没頭でき、充実した時を過ごせることを考えれば、確かに言い得て妙ですね。発明王エジソンの工場には、針のない時計が掛けられていたそうです。針のない時計は無意味との指摘に対して、彼は、「時間は自分がコントロールすべきもの。時計というバロメータに左右されていては何もできない。疲れたと思えば、その場で休めばいい。仕事が完成するまでが昼間、その後からが夜。自分のリズムを持つことが大切。」と話したそうです。学校や会社など多くの場所においては、そのすべてを適用することは難しい環境にはありますが、ある程度の自由度の高い日などがあれば、試してみるのもよさそうです。

10月6日(木) 川俣高等学校長

異 論

京セラの創業者である稲盛和夫氏が第二電電設立を発表した際に、各署から反対の声が噴出したそうです。彼は、「一定期間、一定金額を使わせてくれ。それでだめなら設立をやめる。」と明言します。いわば、失敗の線引きをしたわけです。その設立が成果を上げた背景には、異論を基に何度も何度も改善を図ったから、とも言われています。新たな計画に異論が存在しないことは有り得ません。異論がないということは、異論を見逃している場合もあり、大きな失敗につながる可能性があります。正面からこうした意見に立ち向かうことで、異論は私たちに、これまで気づくことのなかった課題や欠点をそっと教えてくれるのです。

10月5日(水) 川俣高等学校長

忘 却

学習活動をしている生徒の皆さんにとって、せっかく覚えたことを忘れてしまうのは残念なことだと思います。一方で、覚えたすべてのことを忘れずにいたとしたら、すぐに頭の容量を超えてしまうことにもなります。ドイツには、「どうにもならないことを忘れるのは幸福だ。」という諺もあるように、忘却とは、人を守る機能とも言えます。忘れてしまえば何も見えなくなるので、色に例えて黒、逆に、記憶は読める必要があるため、その色は輝く白とします。でも、考えてみてください。すべてが白などの光明であれば、何も読むことはできなくなります。白い文字が読めるのも、黒の存在があるからです。生徒の皆さん、忘れることを恐れないでください。もしも忘れてしまったら、また覚え直せばよいのです。

10月4日(火) 川俣高等学校長

仕事のプロ

生徒の皆さんがレストランのスタッフだと仮定します。そこに、若い頃に訪れた思い出のレストランで食事をしたいとの思いから、老夫婦から食事の予約が入りました。皆さんなら、その老夫婦をどのようにお迎えしますか。他のお客様同様、特別なことをせずに対応することも選択肢の一つです。でも、せっかくこのレストランを選んでくれたのだから、何かしたいと思うのも自然なことです。レストランが提供する美味しい料理を、お客様に一層美味しくいただいてもらえるよう、全スタッフによる環境づくりを考えることで、お客様に満足いただける度合いも高まるはずです。当時と全く同じメニューを準備してみたり、当時と同じ店内装飾を施したり、同じ座席に座っていただいたり、料理に合わせて店内に流れる音楽も、またテーブルクロスも変えてみたりするなど多くの工夫をとおして、積極的な舞台創りが可能となります。アスリートが筋トレを継続するように、仕事のプロは考えることを継続します。また、考えるという行為は、自分の感性を磨き、心の筋肉の成長を促してくれます。

10月3日(月) 川俣高等学校長