令和4年度

コメント

小説家である壇一雄氏がパリを訪れたとき、街頭で、日本の大きなリンゴと比較して明らかに小さなリンゴを目にしました。フランス在住の友人が勧めるので、半信半疑で一口齧った壇氏は、その美味しさを次のように表現したそうです。「美味しいからと言われて齧ってみると、小さいながら、なにかこう、緻密(ちみつ)な、フクイクとした香気のようなものが感じられた」。実の詰まったリンゴを、硬い、とは表現せず、普段は味に関しては使わない緻密としたところに、言葉の選択の素晴らしさを感じます。フクイクとは、漢字で馥郁と書き、いい香りが漂う様を言うのだそうです。馥の右側の字は、ふっくらとした、という意味を含んでいるため、香を加えて「フクイクとした香気」とすることで、その様子が手に取るように伝わりますね。何かを問われたときに、咄嗟に含みのあるコメントで応えることができたら、周囲の人を和ますことができる、と、いつも思っています。

10月24日(月) 川俣高等学校長