令和4年度

校長より

言葉の重み

かつて、動物学者がチンパンジーと人の子どもを同時に育て観察記録を取った例があります。2歳から3歳まではチンパンジーの知能が優っていますが、人が言葉を覚え始めると、その優位性はたちまち逆転するのだそうです。人が言葉を持つ事実がどれほど重大なことであるのかがわかります。人は言葉を使って、文学や芸術、科学などあらゆる分野を充実させてきました。でも、あまりにも身近な存在である言葉であるために、通常はそれを顧みることはないようです。世界を情報が飛び交い、海外の人とも異文化の人とも容易に交流を図ることのできる現在であるからこそ、言葉とは何か、を考える時期なのかもしれません。始めに言(ことば)ありき、という表現があります。ギリシア語では、言のことをロゴスといいます。ちなみにロゴスには、言葉に加えて理性や思考能力という意味も含まれています。

9月13日(水) 川俣高等学校長

商売の原点

かつて街に商店街が多く立ち並んでいた頃の話です。朝に行う店の前の掃除は、主に店主の方が担当されていました。店員の方に任せないのには理由があったようです。第一に、買いに来ていただく客様のことを思いながら心を込めて掃除をすることで、感謝の気持ちを新たにされていたようです。第二に、お客様になるかもしれない、店の前を通る方々の表情などを観察できることです。爽やかな表情をされている人、やや疲れや悩みを感じながら歩いている人など、その表情から窺い知ることで、来店された際の声掛けに心配りをしていたようです。また挨拶すると、挨拶を返してくれる人、無視して通り過ぎる人、掃除の邪魔にならないよう遠回りして歩いてくれる人など、人それぞれの性格をも知ることができます。店の前の掃除は、商人としての心得や経営の呼吸などを学ぶ機会だったのかもしれません。人との接し方は気働きによる、とも言われます。私たちにも通じる心構えでもあります。

9月12日(火) 川俣高等学校長

運 命

生徒の皆さんは、ドイツの作曲家ベートーヴェンを知っていることと思います。ウィーンで演奏家として名声を博していた時期に、彼は病により聴覚のほとんどを奪われます。移り住んだウィーン郊外のハイリゲンシュタットで彼が書いた「ハイリゲンシュタットの遺書」には、絶望という言葉も見られます。でも彼は、運命とは抗うものではなく、運命に従うことこそ、運命を克服する唯一の手段との考えに行きついたとされています。ハイリゲンシュタットの苦悶する日々から14年後、彼は日記に、扉を叩くことこそ自分の運命という強い考えの下、「運命よ、思いのままに力を振るえ。」と記します。生徒の皆さん、人は、なぜ一時、耐え忍ぶことができるのか知っていますか。たとえ過酷な運命であっても、受け入れ、乗り越えていく先には大きな歓喜の瞬間が待っているからです。

9月11日(月) 川俣高等学校長

平 和

タクアン漬けを考案した沢庵和尚は、織田信長時代に生まれます。乱世の静まりを熱望した沢庵和尚の考えは、「堪忍の二字、常に思うべし。百戦百勝するも、一忍に如かず」にある、とされています。彼は、戦いはどこまでいってもきりがなく、それよりも戦わないことこそ最大の勝利である、と考えていました。三代将軍徳川家光の剣術の指南役として仕えた柳生但馬守宗矩(むねのり)は沢庵和尚に教えを乞うていたために、彼の記した『兵法家伝書』にも、沢庵和尚の考えが色濃く反映されています。その柳生流の極意とは無刀取りとされています。かかってくる相手の刀を奪うという術だそうです。戦わないことを心せよ、と、稽古の際に彼は常に諭したそうです。自分との闘いは、時によってあるかもしれません。でも、他者との戦いにばかり目を向けることは、大きな意味を持たないようです。

9月8日(金) 川俣高等学校長

一層の成長

植物に音楽を聴かせるとその成長が早いという話を耳にします。かつて山形県にある音響メーカーの従業員の方が、ステレオから流す音楽の下、育てる野菜作りを提案し実践しました。野菜の苗を植え、芽が出ると、クラシックやロック、演歌などの音楽をかけて育てたそうです。どれも良く育ちましたが、その従業員の方は元々農家の生まれであったため、自分が野菜作りに慣れていたからうまくいったのか、または音楽の効果なのか確証がなく、東北大学の教授から教えをいただくことにしました。教授によれば、一日に一回、野菜の枝葉に触れてやるだけで、エチレンという発育ホルモンが分泌され成長を促すとのことでした。音楽であれば、低い周波数の音が枝葉を動かすことで刺激を与えるため、一定の効果があるようです。何事においても一層の成長を図るには、深い思いやりを持ちながら、これまでの取組にひと手間かけることが大切なようです。

9月7日(木) 川俣高等学校長