令和4年度

2023年9月の記事一覧

事の是非

生徒の皆さんは、自分にしかできない何かを見つけていますか。皆さんが真から興味のあることに一心に取り組み、工夫をしながらその道に励むことは素晴らしいことで、そこから自信も生じます。好きこそ物の上手なれ、という表現もあります。でも、物事に取り組む際には、他者の存在も視界に入ります。もしも先に進む人の姿を目にすると、焦燥に駆られることもあるかもしれません。尾崎一雄氏は『痩せた雄鶏』に、「疲れたら憩(やす)むがよい。彼等もまた、遠くはゆくまい。」と書いています。『宋名臣言行録』にも、「事の是非如何と顧みるのみ。成敗に至りては天なり。」と記されているように、要は、目の前にあることが、是か非か、つまりは、正しいか正しくはないかを見極めることこそ大切なのです。取組の後に、成功であったか失敗したかは問われるものではなく、また、他者の評価も然り、という考えにも行きつきます。ちなみに、ここでいう「天」とは天命を指します。

9月5日(火) 川俣高等学校長

家の形

かつて、地方で大手住宅メーカーの下請けをしていた会社が、基本は四角で作る家屋を八角形で作ってみる案について検討を始めます。提案した社員によると、同じ床面積の住宅の場合、四角形よりも円形に近い形の八角形の方が外周が短く、その分コストダウンを図ることができることをあげ、また、円形にすると工法上難しい問題が生じるものの、八角形であれば従来の工法で建てることができるなど、利点を説明したそうです。ただし、役員会では、壁面の一辺が短くなり、これまでの家具を置くことができなくなるなどの理由で多くの反対意見が出されたため、社長さんが自ら八角形の家を建て、1年間住んでみることにしました。家の中央部の間仕切りの壁に独自開発の家具を置くなど工夫すると、八方の窓からの採光により室内は明るく、夏は風通しに優れ、冬は北風を受ける部分が少ないため温かく、また広く感じる家になったそうです。それにしても、社長さんの商品開発に対する熱い意気込みを感じます。そういえば、八はかねてより、末広がりを示す縁起の良い数字とされていることに加え、聖徳太子が見た夢により建立された法隆寺の夢殿も八角形をしています。

9月4日(月) 川俣高等学校長

得たきもの

無欲の人として知られる与謝蕪村が、「得たきものはしゐて得るがよし(得たいと思うものは無理をしても手に入れたらよい)。」という言葉を残しています。彼はまた、「見たいものはつとめて見るがいい。」とも話しています。物事の判断基準は自分にある、との考えによる表現とされており、よって、しっかりとした判断基準をもって物事を捉えることができるよう日頃から努めることが肝要、との意味にも取ることができます。中国秦時代の宮殿であった感陽宮の釘隠しから作られた刀の鍔(つば)だとして、彼に自慢げに見せびらかす人に対して、与謝蕪村は、何も話さなければ実に良い品なのに、と感想を持った逸話が残されています。また、赤穂浪士の一人である大高源吾が所持していたとする高麗の茶碗だと自慢した知人に対して、彼はただ、何の証があるのか、と感じるのみであったそうです。さて、生徒の皆さんはこれまでに、他者の解釈抜きに、得たきもの、と感じた対象はどのくらいありましたか。

9月1日(金) 川俣高等学校長