令和4年度

2023年6月の記事一覧

書き手の思い

世の中で起こっていることを知るには、新聞やテレビ、ネットが重宝されますが、世の中で起こっていることを理解するには、本を読むことが求められます。情報の新鮮さを求めるならネット等の活用による一方で、情報の信頼度など体系的な内容を求める場合は本、とも言えます。本には、書き手によって精査され、分析された情報が書かれているため、土台となる基礎知識を容易に身につけることができるなど、書き手の思いが込められています。現段階で基礎知識のない分野でも、予め本を読んで下地を作っておくことで、後に大きな差が生じます。

6月8日(木) 川俣高等学校長

物 流

江戸時代には、武士の家に出入りする町人などが武士に対して、干魚や昆布、片栗粉など、比較的長持ちする献進物を届けていたそうです。多くもらい過ぎて余ってしまうために、武士から献進物の残りを引き取る献残屋(けんざんや)という商売があった、と、喜多川守貞の著に記されています。献残屋は引き取った品を御用達(ごようたし))に売り、その御用達は、必要とする武士や町人に売っていたとされますから、ある意味、滞ることなく物流が実践されていたとも言えます。でも、自分が届けた献進物が、ぐるっと回って自分の手元に戻ってきたこともあったのかな、と想像すると、少し落語的感覚にも陥ります。

6月7日(水) 川俣高等学校長

干 支

年末や年始など限られた時を除き、私たちの日常生活の中で干支を意識する瞬間は少ないかもしれませんが、一年中、干支を身近に感じる地域があります。宮崎県延岡市にある北方町(きたかたちょう)です。子丑寅卯と、ほぼ時計回りに地区内が12区分されています。明治22年にこうした区分に決まったといいますから、かなりの歴史を持ちます。かつて、「日本唯一干支の町」をキャッチフレーズとして町起こしに取り組み、十二支の文字が入った街灯や絵入り標識などを設置したりしました。12地区全てを回って印をもらうスタンプラリーも行われたそうです。大晦日に行われる干支祭では、実際の牛を連れてきて、子年からの引継ぎ式を催したこともあったそうですが、想像上の動物である辰のときにはどうしたのか、少し気にもなります。

6月6日(火) 川俣高等学校長

場 面

指揮者井上道義氏が若い頃、イタリアのシシリー島を訪れて、半円形劇場で野外音楽会を開催したことがあったそうです。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第二楽章が終わる直前に、突然の停電が発生します。街中の灯が消えてしまい、周囲は全くの暗闇と化し、見えるのは空に煌々と輝く月のみ。そのとき、客席の一人から、ベートーベンの『月光の曲』のリクエストがありました。譜面もなければ練習もしていない、手元すら見えない暗闇の中、果たして演奏するべきか一瞬悩んだそうですが、『月光の曲』の演奏にこれ以上のお膳立てはない、不意の停電の思いがけない贈り物と考え、演奏を決意します。楽団員も皆、頷いて演奏の準備を整えていました。時々、音をはずすことはあったものの、それは心に染み入る名演奏であった、と、井上氏は話されています。もしかするとそれは、運命が予め準備していた場面であったのかもしれません。

6月5日(月) 川俣高等学校長

邪 念

札幌市資料館入口に、右手には秤を、左手には剣を持った法の女神像が設置されています。そして、正義の象徴として飾られたこの女神像は、目隠しをしています。もともとはギリシャ神話やローマ神話に登場した女神を表したとされるこの像は、欧米にも似たようなものがあるそうですが、目隠しをしている像もある一方で、していない像も存在します。目隠しは、余分なものを見ることなく心の眼で裁く、という信念を表現しているとも言われています。そういえば、江戸時代の京都所司代であった板倉重宗氏は、障子を隔てて人の訴えを聞いたそうです。人の顔を見てしまうと、つい、ひいきの感情が芽生えることもあるため、それを避ける手段だそうです。目以上に心眼は、深く広いところまで見通すことができます。

6月1日(木) 川俣高等学校長