令和4年度

一本のチョーク

医師の方が診察をして症状に合った処方箋を準備すると、薬剤師の方が調剤して患者である私たちにお薬を渡してくれます。こうした医薬分業の体制確立を担当したのが、当時の厚生省官房総務課でした。医師会や薬剤師会、各署代表の方々からなる調査会を進めるのは大変な作業でしたが、課長さんであった高田氏は、部下に対して細かい指示をほとんど行いません。課員が相談して会の運営を進める中、次には採決になる可能性が高くなりました。投票に備えて、用紙や鉛筆、開票を示す黒板など、何度も確認しながら準備を整えます。投票にならない可能性も考慮して、黒板をはじめとして、こうしたものは目立たないよう置くなど、細かな配慮も怠りませんでした。当日、投票が決まると、緊張感が漂う中、課員は予め準備した物の設置を始めますが、投票直前になり、黒板に表示するチョークの準備を失念していることに気づきます。課員全員の顔色が変わったそのとき、高田課長さんがスーツのポケットからそっと一本のチョークを取り出し、課員の一人に手渡したのです。優秀な課員はほとんどの運営をうまくできる、という部下への信頼感が高田課長さんにはあったのです。加えて、高田課長さんは様々な事態への備えもしており、まさに見落としそうな、絞り込んだポイントだけを押さえていたのです。上司の態度として見習うべきことが多くあります。

1月17日(水) 川俣高等学校長