令和4年度

欠乏と過剰

トルストイ『戦争と平和』の中に、『ピエールは、頭ではなく己の全存在、全生命によっておよそ人間は幸福のために創られた者であること、幸福は彼自身の中に、その自然な人間的要求の満足の中に存すること、一切の不幸は欠乏から来るのではなく、むしろ過剰から来ることを知った。』という一節があります。人は、欲するものや要求するものを手に入れることができれば幸福を感じると思い込んでいますが、実はそれは錯覚なのだという指摘です。過剰という豊かさがあまり大きな意味を持たないことは、かつて高度経済成長を経験した際に明確になったことでもあります。苦悩があって幸福があるのは、闇があって光があるのと同じです。この逆説的存在があるからこそ、苦悩の中にも希望を持ち続け、後に必ず幸福が訪れるのです。一時闇にいる瞬間があっても、必ず光に辿り着くことができるのです。そして、その幸福や光は、意外にも身近なものであったりします。日常の何でもない光景が至福の光と感じることは、ドストエフスキーの作品の中にも多く描かれています。

9月15日(金) 川俣高等学校長